「てくてく地獄 さんぽガイド」田村正彦編著
行きたくはないが、いつの日か、行ってしまうかもしれない「地獄」。万が一にも、その日が来てしまっても慌てないように読んでおきたい地獄のガイドブックだ。
そもそも古の日本では死後の世界は「堕ちる」ところではなかった。しかし、6世紀に仏教が伝来。10世紀末に天台宗の僧・源信の「往生要集」によって地獄のイメージが定着した。
さらにその後、死後すぐ地獄に至るのではなく、「死出の山」を越え、三途の川を渡り、7日ごとに十王の裁判を受ける「中有」という期間があることを示す「十王経」が中国からもたらされ、日本人の地獄観が完成した。
一口に地獄と言っても、生前に犯した罪によって異なる地獄が用意され、責め苦や獄卒の姿もさまざま。まずはその「八大地獄」を巡る。
「生き物を殺した」人が送られる「等活地獄」の一番の特徴は「死ねないこと」。罪人は互いに殺し合うが、死んでも死んでも何度でも蘇り、また新たな殺し合いが始まる。その期間は1兆6653億1250万年にも及ぶ。
恐ろしいことに、この等活地獄がもっとも責め苦も刑期も軽いのだ。八大地獄の中でも、もっとも広く、深く、苦しい「阿鼻地獄」に至っては地獄にたどり着くまでに2000年もかかり、その刑期は349京2413兆4400億年。他の7つの地獄の1000倍もの苦しみが待っているそうだ。
あの平清盛も南都焼き打ちの罪でこの阿鼻地獄に連れていかれたそうだ。
人々が地獄を信じなくなった室町時代、新たな信者を獲得するため、この八大地獄の他に4つの地獄が「新設」された。
合わせて12の地獄巡りの他、地獄関連のさまざまなトピックスを網羅する。
地獄に行かずして高みの見物ができるお得本。獄卒らに見つからぬようこっそり読むべし。
(グラフィック社 1600円+税)