「世界で一番美しいマンダラ図鑑」正木晃著
信仰の対象として、または精緻な宗教芸術として、おなじみのマンダラ。マンダラとはサンスクリット語(梵語)で、「円くて、すべてが備わっていて、何一つ欠けていないもの」という意味だという。だが、常に円いとは限らず、日本のマンダラは四角いものも多々ある。
仏教では究極の真理は言葉や文字では伝えられないとされてきた。しかし、最後発の密教は最高の真理を伝えるのに、言葉や文字は不可でも、シンボルや図像なら可能という発想に方向転換し、マンダラが誕生した。つまりマンダラとは厳密に言うと、密教が修行や儀礼のためのアイテムとして開発した図像と定義できる。しかし、そうした厳密な意味でのマンダラの他に、世界中にマンダラによく似た図像がある。
こうした広義のマンダラを含む、世界中のマンダラを紹介する解説書。
今から約1200年前、空海が留学先の唐から伝えたマンダラは、インドやマンダラの頂点を極めたチベットとも異なる方向に独自に発展してきた。
まずは、空海が伝えた「根本曼荼羅」を忠実に転写した平清盛ゆかりの俗称「血曼荼羅」の復元再生版から、神鹿の鞍の上に立てた榊に春日大社の神々や、仏教の如来や菩薩を配置した「春日鹿曼荼羅」など日本独自のマンダラまで。写真と詳細な解説で紹介。
さらに、地面の上に描かれ、儀礼や瞑想が終われば消去された初期のマンダラと同じように色砂を用いて丸3日かけて描かれるチベット密教の「砂絵マンダラ」や、全マンダラの基本形となるペンコル・チューデ仏塔の「金剛界大マンダラ」など、チベットやブータンのマンダラ、そして新たに製作された現代マンダラまで。60以上のマンダラやマンダラ的なものを網羅。
その知られざる世界の奥深さに圧倒される。
(エクスナレッジ 1800円+税)