「資源の世界地図」飛田雅則著
地球温暖化防止の国際的な枠組みである「パリ協定」が実施段階に入った2020年。世界はコロナ禍にあったが、欧米諸国では環境投資をテコに経済復興を狙う「グリーンリカバリー(緑の復興)」を表明。電気自動車(EV)や再生可能エネルギーの普及を図り、石油からクリーンエネルギーへの転換を加速させているのだ。
こうなると重要性を増すのが、EVや再エネに必要な銅などのベースメタル、そして磁性や蛍光、超電導などの性質を持つレアメタルだ。しかしこれらの金属には埋蔵地域の偏在や政情不安などの課題が付きまとう。日本は石油を中東からの輸入に依存してきたが、調達に際しては中東のリスクのみに目を向けていればよかった。しかし脱炭素によってエネルギー転換が進めば、複合的な資源調達リスクに直面することになるわけだ。
現在、新たな資源確保で一歩先を行くのが、中国である。自動車などの工場で使われる超硬工具はタングステンという金属を原材料につくられているが、埋蔵量は中国に55・8%、鉱石生産量も82・1%にも及び、世界首位に立っている。さらに、EVに搭載されるリチウムイオン電池に使われるコバルトの埋蔵量は、アフリカのコンゴ民主共和国に50・7%、鉱石生産でも67・8%を占めているが、コンゴのコバルト資源開発・採掘に参加する資本は、中国が30%以上を占めているという。
さらに中国では、レアメタルを大量輸送するための準備にも余念がない。レアメタルの宝庫であるアフリカに対し1200億ドルの支援を表明し、着々とインフラ整備を進めているのだ。
日本が力を入れる水素エネルギーの現状についても解説する本書。世界のエネルギー転換の今が見えてくる。 (日経BP 1100円)