「完本 アイヌの碑」萱野茂著
アイヌ文化の伝承保存に尽力した著者の著作を集成した復刻版。
ある冬、近所の古老を訪ねると、玄関にフレアュシニ(木いちごの枝)がさしてあった。風邪よけのまじないだ。古老の家は、他のアイヌの家同様、今は耐寒ブロックの現代風の家だが、忘れ去られたと思っていたこの風習を守っていた。そのフレアュシニを見た途端、著者の脳裏に四十数年前の二風谷の風景が鮮やかに蘇ってくる。板囲いの隙間だらけの家の囲炉裏の前で、祖母は糸をよりながら孫たちにアイヌ語でウウェペケレ(昔話)をたくさん聞かせてくれた。自分の民族の誇りを持つことができるようになったのは、そんな祖母のおかげだという。
自らの人生を振り返りながら、アイヌ民族の背負った過酷な歴史や豊かな文化をつづる。
(朝日新聞出版 1100円)