「ドムドムの逆襲」藤﨑忍著/ダイヤモンド社

公開日: 更新日:

 今年最速の短時間で読了した。中身が薄いわけではない。構成がしっかりしていて、文章に無駄がなく、論理的だからだ。

 著者は、短大卒で39歳まで専業主婦をしていた。しかし家計を支える必要が生まれて、知人の紹介でSHIBUYA109のアパレルショップで店長として働き始める。すぐに才能は開花し、右肩上がりの売り上げを達成する。経営学を勉強したわけではないのに、著者が行った改革は的を射ている。実に賢いのだ。

 しかし、業績のよくなった店を身内に任せたいとのオーナーの経営方針で、著者は仕事を失う。生活のためアルバイトとして飛び込んだのが、新橋の居酒屋だった。著者のもうひとつの能力は、コミュニケーション能力の高さだ。だからスタッフに愛され、顧客にも愛される。常連客が増えてきた5カ月後に転機が訪れる。店のはす向かいのテナントが空いたのだ。常連客の勧めもあって、著者は独立開業を決意する。

 事業の経験がなかったにもかかわらず、事業計画を作り、国民生活金融公庫から融資を受けて、繁盛店をつくり上げた。

 彼女がアルバイトから一気に店のオーナーに駆け上がれたのは、多くの人に愛されたからだけではない。彼女が必死に努力を続ける姿を多くの人が見ているからだ。ドムドムから商品開発担当の顧問として招聘されたのも、それが理由だ。

 ドムドムに入ってからも、著者は努力をやめない。商品開発にとどまらず、経営改善のためのさまざまな提案をしていく。そして専務に「私を、意見の言える立場にしてください」と直訴した2カ月後、著者は新社長に抜擢されたのだ。

 著者の率いるドムドムは、黒字化を達成した。私もかつてドムドムをしばしば利用したのだが、最大の魅力は、ドムドムのチープさだった。しかし、いまのドムドムはおしゃれで、おいしい店に変貌した。著者の最大の才能は、過去を捨てられることだろう。男性が再生人だったら、過去のチープさを引きずっていたはずだ。モノが捨てられないコレクターは男性が圧倒的に多いのだ。そうしたことを考えると、企業再生は女性の方が向いている。そう思わせるほど説得力の高い本だ。 ★★半(選者・森永卓郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動