「無理ゲー社会」橘玲著/小学館新書
「言ってはいけない―残酷すぎる真実―」(新潮新書)や「上級国民/下級国民」(小学館新書)など、データを駆使して救いようのない現実をこれでもか、と見せつける橘氏の新刊である。
今回も「無理ゲー社会」のタイトルが示すように、この世の中がもはや多くの人にとっては「無理ゲー」であることを示し、絶望する人もいるかもしれない。「無理ゲー」とは、「攻略が困難なとんでもなく難しいゲーム」を意味する言葉で、まさに今の世の中が困難であることを本書では示す。もはや人間社会は困難なゲームと同様にとにかく「生きることさえつらい」状況にあるというのだ。
まったくもって世の中が理不尽であることを橘氏は毎度示すが、今回も同様である。
〈日本では大卒・大学院卒の男性の生涯賃金は2億6980万円で、高校卒の2億910万円より30%多い(2018年)。アメリカはもっと極端で、大卒の収入プレミアムは70~100%(2倍)とされる。この極端な格差が「アメリカン・ドリーム(努力すれば夢はかなう)」となって強固な信念を形成し、いっさいの批判や反駁をゆるさなかったのだろう〉
さらに最近ネットで話題になった「遺伝ガチャで人生が決まるのか?」についても言及される。なんだかんだいって人間は遺伝により才能が案外決まってしまっている、ということについてだ。著者が示すデータはすさまじい。
〈①日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない②日本人の3分の1以上が小学校3~4年生以下の数的思考力しかない③パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかいない④65歳以下の日本の労働力人口のうち、3人に1人がそもそもパソコンを使えない〉
ただし、これに続くのが、OECD諸国の中では日本はもっともまとも、という結果である。
こうしたデータが次々と提示されるわけだが、ここで絶望的な気持ちになるだけではいけない。「なーんだ、バカが多いんだからオレも一発当てられるかもしれないね!」と前向きに考えるべきなのである。
とはいっても、著者が示すデータや論の前には「オレは不細工だからどうやっても無理だ……」などと萎えるかもしれない。
しかし、そういったネガティブな部分を容認しつつ努力と研鑽を続けて人生は切り開かれる。そういった意味では残酷な本ではあるが、そもそも人生は「無理ゲー社会」である。そこを勝ち抜くには破格の根性が必要だ。そこを理解しよう。
★★★(選者・中川淳一郎)