「格差という虚構」小坂井敏晶著
貧富や学歴など、格差は悪いものとして論じられている。では格差のない理想社会とは何を意味するのかと著者は問う。誰もが同じ学歴と資格を持ち、家庭環境も等しく、収入や地位の違いがまったくない社会は実現不可能であり、我々が求める社会でもなさそうだ。著者は本当の問題は、格差の程度でも社会の流動性不足でもないと指摘。
生まれてくる子どもにとっては、授かる遺伝子も成育環境も偶然の条件であり、それらが育む能力もくじ引きの結果である。現代社会は、自己責任論を持ち出すおかげでこのくじ引きの仕組みがカムフラージュされていると説く。
格差が何の根拠にも支えられていない事実を明らかにしながら、この能力という架空の概念を持ち出して格差を正当化する現代社会のありさまを分析した論考。
(筑摩書房 1210円)