「もっと知りたい柳宗悦と民藝運動」杉山享司監修
思想家の柳宗悦(1889~1961年)が、芸術家や作家によって意図的につくられた作品よりも、職人が無心につくる実用品にこそ美が宿ることを提唱してから約100年が経った。新たな美の見方や考え方に目覚めた柳は、それらを民衆的工芸品=民藝と名付けた。
本書は、時代と共に輝きを増す柳独自の美思想とその実践活動(民藝運動)を紹介するビジュアル入門書。
高等学科を卒業した1910年、柳は高校の先輩だった武者小路実篤や志賀直哉らと雑誌「白樺」を創刊。白樺は、文芸だけでなく美術雑誌としての色彩も強く、ヨーロッパ近代美術の作品をいち早く日本に紹介していた。
大学卒業後、宗教哲学者として世に出た柳は、白樺の読者から贈られた朝鮮陶磁器との出合いを通して工芸の世界に開眼。日本統治下の朝鮮に足しげく通い、工芸品の調査と収集を重ねる。
関東大震災後、朝鮮陶磁器の調査に出向いた山梨で木喰仏と呼ばれる木彫像に心を奪われる。
その後、木喰仏を彫った僧・木喰上人の足跡をたどり、2年間で全国各地に眠っていた約350体もの木喰仏を発見する。
この旅を通し、柳は日本が優れた「手仕事の国」であることを再認識したという。時同じくして、京都に移り住んだ柳は、朝市などで下手物と呼ばれる庶民が愛用した焼き物や布、塗り物、金物などの骨董品を集め始める。
柳が日用の器物の美に開眼するきっかけとなった朝鮮陶磁器「染付秋草文面取壺」や木喰仏「地蔵菩薩像」をはじめ、収集したさまざまな品々を紹介しながら、民藝運動にいたる道を解説。
さらに柳と共に民藝運動を推し進めた河井寛次郎や濱田庄司、バーナード・リーチら工芸作家たちの足跡とその作品も網羅。
一読すれば、身の回りの品々を見る目が変わってくるはず。
(東京美術 2200円)