「歩道橋シネマ」恩田陸著
以前、耳にした噂をたよりに「私」は、ようやくそこにたどり着く。噂では、その場所は「とある県庁所在地の、官庁街の外れの、栄町交差点にほど近い古い歩道橋」で、歩道橋の正面には地下に潜る幹線道路があるということだった。出張のたびに探してきたが、意外にも帰省した故郷で墓参りの帰りに通りかかった場所が、その場所だった。
幹線道路の両側を挟む雑居ビルの壁と地下に潜り込む道路のトンネルの天井、そして道路を越えて宙を走るケーブル管。その縦横の直線が組み合わされて出現する巨大な長方形がスクリーンとなり、その人がかつて大事にしていた記憶に出合えるというのだ。
ほか、ミステリーやホラー、青春モノまで、さまざまなジャンルの秀作18編を収録した作品集。
(新潮社 781円)