「落葉の記」勝目梓著

公開日: 更新日:

 伸子が留守の間に猫のクロベエが死んだ。実家に帰った伸子に知らせたら、月に一度の母親孝行が上の空になると思って知らせなかった。使い古しのタオルにくるんで、クロベエを庭の隅の楓の下に埋めた。漬物桶の枠板に「クロベエの墓」と書いて、漬物石を墓石代わりに載せた。

 帰宅した伸子にクロベエの死を告げると、伸子は玄関マットの上にうずくまって泣きじゃくった。クロベエを埋葬したことを告げると、43年の結婚生活で見たことのない、凄まじい怒りと恨みと難詰の籠もった目でにらみつけた。「なんてことするの、人でなし」と言って、仏壇から線香を持ってきて庭に出た。(「落葉日記」)

 勝目が亡くなる前日まで執筆した最後の作品集。

(文藝春秋 2000円+税)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…