沢野ひとし(イラストレーター・エッセイスト)
7月×日 この数年視力の衰えが加速している。白内障の手術を受けたが、別の目の病気が忍び込んできた。70代の半ばを過ぎるとやはり足腰も弱り、不平不満の日々。
7月×日 響林社の大活字本を愛読している。「東京の昔」「追憶の銀座」といった一昔前の作家のエッセーが身に染みる。B4判の大きな本なので、作品ごとに分解してホチキスで綴じて、和紙の表紙を付け、私家版にしている。眠るときに広げると熟睡する。
7月×日 塩澤幸登著「人間研究 西城秀樹」(2970円)、「昭和芸能界史」(3300円 共に河出書房新社)。両方とも原稿用紙約千百枚くらいの分厚いずっしりと重い書籍である。いつもなら敬遠したくなる本だが、ページをめくると思わず読み耽ってしまう。
西城秀樹にはまったく興味はないが、70年代の音楽シーンと重なり「うんうんそうだったよな」としだいに体が熱くなる。特に第3章の「西城秀樹を研究する」、第4章「西城秀樹芸能活動年表」は圧巻である。単なる年表の羅列で終わってはいない。まるで自分の青春時代を振り返るようで、切ない思いがする。
7月×日 続いて「昭和芸能界史」をめくると、つくづく「戦後の昭和」がのびのびして豊かな時代だったと振り返る。
塩澤氏は平凡出版(現マガジンハウス)に52歳まで勤務していただけに芸能誌に対しての思いは強い。同じ著者の「平凡パンチの時代」「雑誌の王様」を拝読すると、昭和の大衆文化は彼の右に出る人はいないと断言できる。さらに私小説作家のごとく塩澤幸登本人が赤裸々に登場してくる。ここに更に私は魅力を強く感じる。50代から70代にかけ走り抜けた世代の必読書と言えよう。退屈する暇がない本である。