「食虫植物」福島健児著

公開日: 更新日:

 植物は光合成によってでんぷんなどの養分を得て成長するのが基本であるが、食虫植物は「動物をだまし、捕らえ、文字通り食べてしまう」という独特の生存戦略をとっている。この奇妙な存在は進化学の祖チャールズ・ダーウィンをして「世界で最も不思議な植物」といわしめた。

 本書は、あまり知られることのない食虫植物の意外な生き方と、その謎に満ちた進化の迷宮を探索したもの。

 食虫植物が虫を捕らえる方法はさまざまだが、いずれも「狩り」に比定することができる。①やってきた虫を挟み撃ちするトラバサミ②粘着質の物質で虫を捕らえるトリモチ③長い触毛を使って粘液を帯びた葉の中に虫を放り込む投石機④滑りやすい穴の入り口に誘い込んで落とす落とし穴⑤近づいた獲物を吸い込むスポイト⑥一度中に入ったら抜け出ることのできないウナギ筒。

 これらの仕掛けを駆使して捕らえるのだが、ただ待っていても獲物はやって来ない。獲物を引きつける匂いを放っておびき寄せるのだ。さらには、虫を食べずに、垂れ下がった袋を虫たちのトイレとして提供し、その排泄物を養分として取り込むという変わり種もいる。

 では、一体なぜ食虫植物たちは「食虫」という戦略をとるに至ったのか。そもそも適者生存という概念において食虫植物は果たして「適者」なのか。というのも、全ての食虫植物が栽培下では虫を捕らずとも子孫を残せるからだ。

 では、どのような環境下において「食虫」を選択し、どのような進化の道をたどって現在のような形態になったのか。進化の迷宮ともいうべき幾多の謎が複雑に絡み合いながら、この特異な植物の存在を成り立たせていることを教えてくれる。

 現存している860種の食虫植物のうち243種が準絶滅危惧以上にランク付けされている。まだ解明し得ない謎も多いという。何とか絶滅を回避させて、さらなるユニークな研究が望まれる。 <狸>

(岩波書店 1980円)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…