「スターリンの正体 ヒトラーより残虐な男」舛添要一著/小学館新書

公開日: 更新日:

「粛清」「処刑」「銃殺」──この3つの言葉がここまで頻繁に登場する本は読んだことがない。とにかく全編を通じて血なまぐさい話が続くのだ。著者は「ヒトラーの正体」「ムッソリーニの正体」という本を過去に書いたが、今回のスターリンが残虐性がもっとも強いと説明する。

 多くの日本人にとって、表層的なイメージとしては「ヒトラー=ユダヤ人虐殺・ガス室送り」「ムッソリーニ=よく分からない」「スターリン=大粛清をしたらしい」といったものだろう。そして、一般的にはヒトラーこそ「悪魔」のように扱われている。この3人の残虐性を著者はこう記す。

〈政権獲得まで、最も民主的だったのがヒトラー、次いでムッソリーニですが、スターリンの場合は、政権樹立そのものからして暴力によるものでした。そして、暴力を使って独裁体制を強化していったのです。政権を獲得するのに共に苦労した仲間まで、平気で粛清し、弾圧した点ではスターリンの非道さは群を抜いています〉

 ウクライナ侵攻を決めたプーチン大統領の残虐性もこの1年ほど散々取り沙汰されている。そしてこの時期に本書が登場したのは、ロシアという国の独裁者がいかなるバックグラウンドがあって登場したのか、といったことを解き明かすヒントになるだろう。さらに、この3人を著者はこう比較する。ムッソリーニは妻から「裏切り者は排除せよ」と言われても、放っておいたため失脚が早まった。ヒトラーはナチス創成期、苦労していた時代の仲間は殺すことに躊躇し、ナチス創成期の側近は最後まで重用した。そしてスターリンはこうだ。

〈暴力の肯定という点では、ともに革命を遂行した仲間に対しても、罪を捏造して処刑するスターリンの徹底ぶりは特筆に値します。その猜疑心は類を見ません〉

 とにかく、ドラキュラ伯爵のモデルとなった「串刺し公」とも呼ばれるブラド3世や西太后か! というような残虐話が延々続くのだから、ソ連・ロシアの成り立ちがよく分かる。

 ただし、膨大な資料をベースに書いた大作だけに、それが結果として細部の印象を薄める部分もある。

 膨大な登場人物、その名前の多くがニコラーエフ、エジョフ、コサレフなど、「〇フ」で終わる。さしずめ日本なら山田、吉田、村田、青田、本田だらけが登場する話に見えてしまう。登場人物にも著者にも非はないものの、注意深く読まなくては誰が誰だか分からなくなる。 ★★(選者・中川淳一郎)

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…