「白鶴亮翅」多和田葉子著
「白鶴亮翅」多和田葉子著
物語の舞台はドイツ。当初、夫の留学でドイツ・フライブルクに来た美砂は、その後日本に帰国してしまった夫と別れて、翻訳業を営みながらひとりで首都ベルリンに住んでいる。
ある日、美砂は隣人のドイツ人男性Mさんに誘われ、太極拳教室に通い始めたのだが、Mさんは途中、同性パートナーと旅に出るため、美砂はひとりで教室に行くことに。美砂は太極拳講師の中国人女性・チェンさん、生徒として通ってきた中年のロシア人女性・アリョーナや、フィリピン出身の英語教師・ロザリンデらと次第に親しく話すようになり、そこから各国の事情や移民、国境について考え始めるのだが……。
本書は、著者にとっては初めての新聞連載小説。ベルリンで出会った人々との会話を通じて、国家や民族、それぞれの国にとっての第2次世界大戦、国家や民族について考えを巡らせる主人公が描かれる。
表題の「白鶴亮翅」とは、鶴が羽を広げるように右腕を上げる太極拳の技のこと。主人公が翻訳家という設定もあり、さまざまな世界文学についても触れられており、歴史・文学の両面から知的好奇心をくすぐられる。
(朝日新聞出版 1980円)