給食から秘境食まで!食欲と知識欲を満たす本特集
「給食の謎」松丸奨著
365日、私たちの生活と切り離すことができない「食べる」という行為。食の知識を増やすことは、日々を豊かにすることにもつながるはずだ。今回は、誰もが食べてきた給食のトリビアから、日本人の食卓に影響を与える地魚の行方、そして未知の秘境食まで、食にまつわる知識を増やしてくれる4冊を紹介しよう。
「給食の謎」松丸奨著
和食の飲み物として牛乳が合わないことは誰もが感じていることだが、給食の飲み物は牛乳一択。いったいなぜなのか。
これは、昭和29年の学校給食法施行段階からカルシウム値を満たすために決まっていたこと(当時は脱脂粉乳だったが)。時代も令和になり、ほかの食材に替えてもよさそうだが、さまざまな制約がある給食ではこれがたやすくない。例えば、小松菜もカルシウム豊富だが1人1束必要になるため予算オーバー。ちりめんじゃこだと今度は塩分が基準値を超えてしまうのでNG。すべてをクリアするのが牛乳なのだ。
ちなみに、米どころの学校では和食と合わない牛乳は休み時間に飲ませてしまうという取り組みがあった。しかし、一気飲み後すぐさま校庭で全力で遊び、吐き戻してしまう子どもが続出したため、やはり給食時に提供することになったとか。
消えたソフト麺の謎、宇宙食並みの衛生管理、宗教別の対応食など、給食の今昔とトリビアが満載だ。 (幻冬舎 1056円)
「豆腐の文化史」原田信男著
「豆腐の文化史」原田信男著
夏は冷ややっこ、冬は湯豆腐、そして毎日の味噌汁にと、日本人の食生活に深く溶け込んでいる豆腐。この愛すべき食材の誕生や受容についてさまざまな文献からひもとくのが本書だ。
豆腐がこの世に登場したのは紀元前2世紀ごろ。前漢の高祖の孫である淮南王・劉安が考案したと伝えられる。劉安は陰陽師などの方術士とも親交が深く、そのため硬い種子を軟らかな豆腐に生まれ変わらせるという驚きの発明をした人物と伝えられているようだ。
日本には弘法大師が平安時代初期に伝えたという説がある一方、史料上に豆腐が登場するのはそれからずっと先の12世紀終盤。春日大社に供したものの中に初めて豆腐の記述があるそうだ。
豆腐を藁苞に巻いて蒸したツト豆腐など、各地で食べ継がれている珍しい豆腐料理も紹介。身近な豆腐の奥深い背景が見えてくる。 (岩波書店 1210円)
「昆虫カメラマン、秘境食を味わう」山口進著
「昆虫カメラマン、秘境食を味わう」山口進著
「ジャポニカ学習帳」の表紙といえば、珍しい昆虫や美しい植物の写真。あの写真を1人で撮り続けてきた著者による、撮影で訪れた世界各地の秘境の食文化体験記だ。
パプアニューギニアの高地では、サツマイモを主食とする人々と寝食を共にした。サツマイモは日本でも珍しくないが、現地の人々が食べるのはまさにサツマイモ“だけ”。明らかにタンパク質が足りないのに、彼らは筋肉質でいい体をしていた。
そこで観察してみると、昆虫をよく食べていた。ゾウムシの幼虫やナナフシを捕ってきては焼いて食べる。クワガタは見つけるやその場で引きちぎり体液を吸う。なるほど、これでタンパク質を補うのかと感心する著者。
タイのチェンマイではタガメを実食。タイ風ラーメンのミーナムの隠し味として用いられるタガメは、スープにパクチーのような爽やかさと梨のような甘い風味をつけるのだとか。
世界は広い。 (集英社インターナショナル 946円)
「美味しいサンマはなぜ消えたのか?」川本大吾著
「美味しいサンマはなぜ消えたのか?」川本大吾著
安くて美味しい庶民の魚だったサンマ。最近は高くて食べていないという人も多いだろう。本書では、食卓に直結する日本の漁業のさまざまな課題をリポートしている。
1950年代、日本のサンマの漁獲量は年間50万トンを超えていた。ところが2019年には5万トンを下回り、ついに2022年に1万8000トンとなってしまった。背景には、親潮の弱体化とそれに伴う北海道東・三陸沖の海水温上昇があり、サンマが南下しにくくなっていることが挙げられるという。
加えて、外国漁船台頭の影響も大きい。日本から離れた公海で5月ごろからごっそり取りまくる中国だけでなく、1990年以降はロシアや韓国もサンマ漁に加わった。結果、日本のサンマ漁獲のシェアは減少し続けているのだ。
ほかにも、安くて儲けが少なく取引されないイワシ、大型で脂たっぷりの外国産に押されるサバなど、消えつつある日本の地魚の現状を紹介する。 (文藝春秋 990円)