著者のコラム一覧
金井真紀文筆家・イラストレーター

テレビ番組の構成作家、酒場のママ見習いなどを経て2015年から文筆家・イラストレーター。著書に「世界はフムフムで満ちている」「パリのすてきなおじさん」「日本に住んでる世界のひと」など。

「アフガンの息子たち」エーリン・ペーション著 ヘレンハルメ美穂訳

公開日: 更新日:

「アフガンの息子たち」エーリン・ペーション著 ヘレンハルメ美穂訳

 アフガニスタンに行ったことはない。でもアフガニスタン出身の人には何度か会ったことがある。パリの路上、難民たちに食料を配っている場所で。テヘランの下町、NPOが運営している寺子屋で。そこでは正規の学校に通う資格をもたないアフガン移民の子どもたちに勉強を教えていた。東京でも、タリバンから逃れるために来日したと語る一家にお会いした。

 わたしが会ったアフガニスタン出身者はみな「逃げてきた人」だった。40年以上も紛争や自然災害にさらされて、いったいどれほどの人が国外に逃げたのだろう。その国の名を聞いて、思い浮かぶのが「逃げてきた人」ばかりだなんて、ほんとに悲しい。

 今回ご紹介するのはスウェーデンのヤングアダルト小説。舞台は未成年の難民を収容する施設、そこでの日常が新人職員の目を通して描かれる。この静かで切ない物語のなかで、わたしはまた印象的なアフガン人と出会った。いくつもの国境を越えて北欧まで逃げてきた14歳のザーヘル、17歳のアフメドとハーミド。彼らは祖国で経験したことを決して語らないが、3人とも精神科で薬を処方されている。

 それでも10代の少年たちの日常はにぎやかだ。海に飛び込んではしゃぐ。自転車で疾走する。テコンドーを習う。コンドームをねだる。18歳の誕生日を祝う。そして移民局に呼び出される日がやってくる……。

 著者は移民局や難民支援施設で勤務した経験をもち、本作で作家デビューを果たしたという。世界のつながりを伝えてくれる彼女の小説をもっと読みたい。ほかの作品もぜひ翻訳してほしい。

(小学館 1980円)

【連載】金井真紀の本でフムフム…世界旅

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  2. 2

    “氷河期世代”安住紳一郎アナはなぜ炎上を阻止できず? Nキャス「氷河期特集」識者の笑顔に非難の声も

  3. 3

    不謹慎だが…4番の金本知憲さんの本塁打を素直に喜べなかった。気持ちが切れてしまうのだ

  4. 4

    バント失敗で即二軍落ちしたとき岡田二軍監督に救われた。全て「本音」なところが尊敬できた

  5. 5

    大阪万博の「跡地利用」基本計画は“横文字てんこ盛り”で意味不明…それより赤字対策が先ちゃうか?

  1. 6

    大谷翔平が看破した佐々木朗希の課題…「思うように投げられないかもしれない」

  2. 7

    大谷「二刀流」あと1年での“強制終了”に現実味…圧巻パフォーマンスの代償、2年連続5度目の手術

  3. 8

    国民民主党は“用済み”寸前…石破首相が高校授業料無償化めぐる維新の要求に「満額回答」で大ピンチ

  4. 9

    野村監督に「不平不満を持っているようにしか見えない」と問い詰められて…

  5. 10

    「今岡、お前か?」 マル秘の “ノムラの考え” が流出すると犯人だと疑われたが…