「世界の飼い犬と野生犬」トム・ジャクソン著、菊水健史監修、倉橋俊介訳
「世界の飼い犬と野生犬」トム・ジャクソン著、菊水健史監修、倉橋俊介訳
この本と同時に「世界の飼い猫と野生猫」も発売になって、わたしの心は揺れた。どちらも写真満載、大判のビジュアル図鑑。わたしは長く「部下は猫2匹」を標榜し、しょっちゅう猫のイラストを描いているので「猫派」とみなされている。ちなみに部下は2匹とも先にあちらへ旅立った。追って三途の川で合流する手はずである。
でも今回取り上げるのは犬の本のほう。理由は、はたらく姿が載っているから。猫も犬も長くにんげんの友人だが、さまざまな職場を与えられてせっせと仕事をしているのは犬だ。「狩猟犬」「使役犬」の章が充実していてうれしい。羊の群れの横を疾走するボーダーコリー、トリュフを嗅ぎ当てるダックスフント、水難救助に向かうラブラドルレトリバー。世界各地で今日も犬たちはがんばっているのだなぁ。と怠惰なにんげん(わたし)は寝転んで本を眺めてニヤニヤしている。
はたらく犬につい頬が緩んでしまうのは、子どものころ実家でパピーウォーカー(盲導犬になる前の子犬を預かるボランティア)をしていたからかもしれない。しかし我が家で生後1年までを過ごし、盲導犬訓練所に巣立っていったメスのシェパード「リンダ」は、ついに盲導犬になれなかった。落ちこぼれ犬として訓練所から戻ってきて、うちの庭でのんきな余生を送った。おっとりした犬だった。後年、盲導犬訓練士をしている人と知り合いこの話をしたら、彼は間髪入れずに言った。
「盲導犬になれてもなれなくても、その犬らしく生きることがいちばん大事です。落ちこぼれの犬なんていません」
犬はいいなぁ。はたらかない猫もいいなぁ。 (エクスナレッジ 3080円)