「頑張らない介護」のぼる氏
「頑張らない介護」のぼる著
「てめぇ、いい加減にしろよ、本当に勝手なことばっかしやがって!」と、何度ブチギレたかわからない。著者の目の前には、息子の言うことも医者の忠告も聞かない、破天荒な行動を繰り返す父親がいる。
本書は、自身は30代、知識ゼロで突如始まった遠距離介護の生活と、そんな中でも自分自身の守り方を見つける方法をつづった一冊だ。著者は父とのリアルな介護生活をYouTubeでも発信し、話題となっている。
ある日、73歳で1人暮らしの父に脳梗塞が判明し入院となった。病室で父に言われたことは「俺、金ねぇよ。入院費はおまえらが払ってくれよな」。そのとき初めて、父には収入も貯金もなく、電気・ガスなどの滞納額が100万円以上という事実を知り、前途多難な介護生活がスタートする。妻と子どもと一緒に住む神奈川県横須賀市から2時間かけて実家のある東京都杉並区高円寺に通うようになった。
「父は自営業で、収入が多いときもありましたが宵越しの金は持たない主義で、全部使ってしまっていたようです。老後のお金は全部子どもに世話してもらうつもりだったみたいですね」
父親は自分の論理を押し通すため、介護にトラブルが絶えない。退院後のリハビリには頑として行かない。「おまえがつくる食事の量が少なすぎるから入院したい。入院すればたくさん食べられる」と、勝手に救急車を呼ぶ、転院の際に暴れて入院拒否になる、一文無しでタクシーに乗り警察沙汰になる。
まるでドラマのような話だが、すべて事実。介護において、その大変さを少しでも和らげることができるのは、「ありがとう」「ごめんね」を心から相手に伝えることだと著者。だが、子どもが親の面倒を見るのは当たり前と思っている父からは、そんな言葉は一切ない。著者はこれらの対処の連続に絶望感しかなかったという。
さらに月20万円の介護費を負担。著者には姉弟もいるが、諸事情から一人で請け負った。精神的にもう限界……という中で、あるとき著者は自分の心を守らなければ、と気づいた。
「自分の心を前向きに保つにはアウトプットすることが一番です。散歩や友人たちに話を聞いてもらうこともありましたが、YouTubeで父とのリアルな介護生活を発信するようになったら、自分の思いを吐き出せてストレスはかなり軽減しました。介護でしんどい思いをしているなら、SNS上の介護コミュニティーへの参加は助けになると思いますね」
育児と違い、介護の終わりは見えない。だからこそ親との向き合い方を決めておくことが、疲弊しないコツだと著者。
「自分と親の課題を分けること、つまり自分の今できることのみに集中することが大事です。それ以外は、ケアマネさんやヘルパーさん、医療のかたを頼ります。そして、自分の人生の中で一番大切な物は何かという優先順位をつけておくこと。僕にとっての最優先事項は、妻と子どもたちと過ごす時間です。親の介護は頑張りすぎない、頑張らないことです」
自宅では、よく子どもも交えて話をする。
「いつか人生で親子が協力しないと乗り切れない難局を迎えたとき、そこに話しやすい環境があるかどうかで全然違うと思います」 (KADOKAWA 1650円)
▽のぼる 1986年、東京都生まれ。元プロサッカー(コスタリカ)選手。母は15年前に他界、父が脳梗塞になったのを機に介護を始める。そのありのままの日常をYouTubeで発信。2024年1月現在、総再生回数は7500万回を超す。父の介護と1男1女の子育て中でもある。