「朔が満ちる」窪美澄著
「朔が満ちる」窪美澄著
岩木山の麓の村で、幼い頃から父親の暴力に耐えながら育った史也は、13歳のとき、父親の頭に斧を振り下ろす。罪に問われる14歳になる前に父親を殺害しようと決めていたのだ。
父親は一命をとりとめ、父のケガは駐在によって、事件ではなく事故として処理される。半身不随になった父が帰ってくる前に史也は弘前に住む伯母に引き取られ、東京の大学に進学。今は建築カメラマンのアシスタントとして働く。
そんな史也の部屋にある日、病院で2度ほど顔を合わせただけの看護師・梓が転がり込んでくる。養父が決めた結婚相手から逃れるためだった。施設で育った梓は、史也を頼った理由を「あなたもあたしと同じにおいがする」からだという。
家族の愛を知らずに育った2人が人生を取り戻す姿を描く再生の物語。 (朝日新聞出版 880円)