「本の店 &company」(文京区・向丘)「全て私の蔵書という気持ちで真剣に選んでいます」
本郷通りを日医大の方向に曲がった先。2階建ての古いアパートの1階が、軽くジャズピアノ曲がかかる小さな本屋さんに生まれ変わっている。
「去年の9月にオープンして、ちょうど1年です」
と、店主の末竹京子さん。もしや店名はパリの「シェークスピア アンド カンパニー書店」から? と聞くと、「はい、1919年創業の。人が行き交い、権力に抗う人たちを支援してきた……。おこがましいですが、敬意を表して」と。
末竹さんは、主に大学図書館の司書として働いてきたそう。「定年のとき、それまでと違う形で、本の近くにいたい」と思った。折しも、独立系書店の開業ラッシュ。辻山良雄著「本屋、はじめました」、宇田智子著「増補 本屋になりたい」など約30冊の開業物語本を読み、不動産屋さんに「人通りが少なく、お勧めできない」と言われようが、「なんとかなるだろう」と決断したと述懐する。
6.5坪の店内に、1400冊弱。「町の本屋ですから、幅広く。でも、全て私の蔵書という気持ちで、真剣に選んでいます」と末竹さん。地域、建築、小説短歌、詩、哲学・思想、海外文学、体、戦争、近代文学……と棚の並びを案内いただく。
「いっせいになにかがはじまる予感だけがする」を手に「芸大の院生、のもとしゅうへいさんが、執筆から造本設計、ブックデザインまで全て手がけた小説です」。
箔押しのタイトルが美しい、内田百閒「シュークリーム」(山本善行撰)を取り、「京都の灯光舎という小出版社がつくっています」といった案内がさりげなく。はたまた、檀一雄がコップ酒を手にした写真が表紙の「作家と酒」と、有吉佐和子が一点を見つめコーヒーを飲む、その凄みが利いた写真が表紙の「作家と珈琲」を「いいでしょう?」。うなずきまくる。
全ての棚が美しいのは“司書ルール”のなせる業
「書店ってキュレーションの時代が来ていると思う。『あ、僕の読みたいもの、ここにあったのか』といつも思う」と、推定40代の男性常連客が言う。なるほどなるほど。「図書館司書のキャリアのなせる業ですね」と末竹さんに振ると、照れた表情を浮かべ、「本の背表紙を揃えて並べるという“司書ルール”がありまして」とはぐらかされてしまった。全ての棚が、とても美しい。
◆文京区向丘2-15-16/地下鉄南北線東大前駅2番b出口から徒歩5分、千代田線千駄木駅・根津駅各1番出口から徒歩8分/℡03・5842・1803/10~18時(土日祝日10~17時半)、火・水曜休み
ウチの推し本
「南インド キッチンの旅」齋藤名穂著
インドの出版社タラブックスから出た「Travels Through South Indian Kitchens」の日本語版。
「著者は建築家。タラブックスの出版イベントに呼ばれて、南インドに滞在した3カ月間に、21の“南インドの普通の家庭のキッチン”を訪問したんですね。キッチンの実測図、イラスト、写真、家庭料理の大まかなレシピなど、南インドの人たちの等身大の生活を伝える、センス抜群の一冊です」
(ブルーシープ 2750円)