契機は1枚のチラシ 重田千穂子が語る熊倉一雄さんへの恩
それから10年、いろんな舞台に出ましたが、やっぱりエコーの喜劇がやりたい、熊さん、納谷(悟朗)さんとちゃんと芝居ができていなかったという後悔が湧いてきて、ある日、2人に「戻りたいんですけど」と電話しました。
納谷さんは「おお、いいぞ、戻って来いよ」と簡単に言うし、熊さんは「そっかそっか、そうしなさい」って。普通の劇団は一度退団したらそれでおしまい。それが「いいよいいよ」ですからおふたりの度量の広さには本当に感謝してます。しかも復帰作では熊さん演出の主役でしたから足を向けて寝られません。
復帰後は熊さんが亡くなる前年の「遭難姉妹と毒キノコ」まで何度も共演させていただき、身近で喜劇の感性を学ばせていただきました。いつも品よく、若手にも気を使わせない人でした。そんなに面と向かって親密に接していなくても、今になってみると、早くに父を亡くした私にとっては本当の父のような人だったなあと。先日「父の日」には思い出してつい奥さまに電話しちゃいました。