昇太兄さんが悪魔の囁き「落語家がこまつ座に出るなんて」
「とにかく疲れ方が落語と違うんです。それは量でなく質が違う。落語は上半身だけで演じますが、芝居は全身を使う。加えて、落語家は1人でいろんな人物を演じるから一役になりきらない。他者との掛け合いもないので、芝居で相手がせりふを言ってる間、どんな顔をしてたらいいかわからない。今回の芝居では相手役にひっぱたかれ転ぶ場面があって、転んで倒れるのがとっても難しい。落語では転ぶ稽古なんてしませんから」
喬太郎の新作落語はストーリーの展開、登場人物の造形、せりふの間などが演劇的だといわれている。だから芝居をしても違和感がないのではと思っていたが、そうではなかった。
「初めて芝居に出た時、年下の演出家に、『1人でやってる感じがしますね』と言われたのを思い出します。役者さんと掛け合いをしてるのに1人芸になってたんでしょう。それから、観客に笑いを求める落語特有の間が芝居では邪魔らしいんです。『それはやめましょう』とはっきり言われました」
落語と芝居の二刀流は思いのほか難しいようだが、これまでの経験が役立っているはず。今回はラサール石井の演出で喬太郎がどんな芝居をするのか期待が膨らむ。
(聞き手・吉川潮)
▽やなぎや・きょうたろう 1963年、東京生まれ。89年、柳家さん喬に入門。前座名は「さん坊」。93年、二つ目に昇進し「喬太郎」と改名。2000年、真打ち昇進。14年、落語協会理事に就任。