代表作「ラストエンペラー」でB・ベルトルッチ監督を悼む
劇中の甘粕正彦(坂本龍一)は関東大震災のときに陸軍憲兵大尉として大杉栄夫妻を惨殺し実刑判決を受けた人物。“東洋の真珠”として登場する男装の麗人は関東軍のスパイとして僧侶殺害などに手を下した川島芳子だ。川島はもとは中国人で戦後銃殺刑に処せられた。2人は大日本帝国の侵略に一役買い、死に追いやられた。
終盤の文化大革命のくだりは民衆が国家権力によって翻弄されることを訴えている。ベルトルッチ監督は共産主義へのシンパシーを表した作風で知られるが、この場面で振られる赤旗と紅衛兵の舞踏のような行進はどこかむなしい。「1900年」(76年)でファシスト党壊滅の際に出てきたつぎはぎだらけの赤旗と大きくかけ離れている。
ちなみに劇中の溥儀は自分を「プレーボーイ」と称したが、実は妻がありながら同性愛者だった。そのため弟の溥傑が日本の嵯峨侯爵の娘・浩と政略結婚。戦後の57年、長女の慧生が天城山でピストル心中した事件は今もミステリアスな悲劇として語り継がれている。
(森田健司)