「3万円は返さないことにした」立川談志は常にネタを意識
いかにも談志らしい。後でネタになりそうなことを意識してやっている。
「ホテルのパーティー会場で会った時は、『財布を忘れてきたから3万円貸してくれ』と言うんで、フロントでピン札の1万円札2枚と1000円札10枚に替えて封筒に入れて渡しました。使いやすいようにです。そういう細かいことを見てる人ですから。翌日、僕が出ている浅草演芸ホールに寄って返すと言うので待っていたら、楽屋に電話がありまして、『昨日はありがとう。助かったよ。それでね、3万円は返さないことにした。返さなかったことを高座でしゃべってどこかに書いてもいい。そのほうがネタになっていいだろう』って」
これまた談志ならではの言い草である。
「おまえも売れてるんだから、3万円くらいなんでもないだろう、という僕に対する甘えと、ネタになるという計算ですよね。面白い人でした」
談志は晩年、喉頭がんにかかって亡くなった。5年前に木久扇は同じ病気を放射線治療で治した。不思議な因縁である。
(つづく)