「尼僧ヨアンナ」尼僧院の悪魔払いで描く愛欲と狂気の相克
聖職者といえども人間だ。男も女も性欲を封殺するのは難しい。おそらくヨアンナは生来の性欲の強さに多重人格が上塗りされたのだろう。彼女は尼僧院という女だけの世界で禁欲を強いられ、スリン神父も自己に“女犯”を禁じてきた。
両者は己の肉体を打擲(ちょうちゃく)するが、自己を戒めれば戒めるほど愛欲という悪魔は強大化し、生身の男女として引かれ合う。本作に漂うのは禁欲と狂気の相関関係であり、そのためスリン神父は衝撃の結末に至る。
明治維新の際、江戸城の大奥から大量の張り形が出てきたといわれる。江戸時代には江島生島事件が起き、感応寺事件では大奥の女中たちが破戒僧と情交していた。現代のAV女優には快楽が目的で出演する女性が少なくないそうだ。
古今東西、人は性欲と闘ってきた。ヨアンナは特別に堕落した女ではない。ただ彼女から天使が飛び去っただけなのだ。
(森田健司/日刊ゲンダイ)