「静かなる決闘」感染症で人生狂わされた青年医師心の叫び
映画は人間の性欲というテーマにも踏み込む。恭二は病気の感染を恐れ、愛する美佐緒と唇を交わすこともできない。さりとて他の女性を抱くことも自分に許さない。「禁欲」という名の十字架。彼は愛情と欲望にさいなまれながら、心の底で呻き声を上げる。峰岸はそんな彼のために女である自分を役立てたいとさえ思っている。
こうした苦難に見舞われながらも恭二は弱者に優しい。なぜなのか?
ラストで峰岸の赤ん坊をあやしながら父孝之輔が語る短い言葉こそが真実だ。「不幸」は人をどう形作るのか。志村僑は「羅生門」の結末と同じように乳飲み子を胸に抱いて人の心の清廉さを説いた。医療従事者とその子供たちを誹謗した愚者どもは正座して本作を見よ。そして懺悔せよ!
(森田健司/日刊ゲンダイ)