著者のコラム一覧
井筒和幸映画監督

1952年12月13日、奈良県出身。県立奈良高校在学中から映画製作を始める。75年にピンク映画で監督デビューを果たし、「岸和田少年愚連隊」(96年)と「パッチギ!」(04年)では「ブルーリボン最優秀作品賞」を受賞。歯に衣着せぬ物言いがバラエティ番組でも人気を博し、現在は週刊誌やラジオでご意見番としても活躍中。

鑑賞マナーで映画館は「罰ゲーム空間」になってしまった

公開日: 更新日:

 館内の客たちの、あの意味がありそうで実は何もない、ただ“おとなしい”無言の空気感は一体、何なのか。それが実は一番気味悪いのだ。300席の半分以上、わりと大勢入ってる時でもシーンとしたまま笑い声やかけ声のひとつもない。いつからあんなふうになったのか。それが疑問だった。もしかしたら、あの空気感こそが、日本の大感染爆発を防いだ理由か。鑑賞マナーを服役囚のように守り、息をひそめている。映画の中身のせいなのかな。

 映画は思わず笑うものだ。思わず、かけ声もかかるだろう。アメリカからシネコンが上陸した頃から、映画の楽しみ方に変な規則が決められ、でも、日本人はそれを厳粛にとらえ、静粛にして奇妙な空間が出来上がった。70年代は小屋(劇場)が満杯であればあるほど歓声もヤジも乱れ飛んだ。客がため息を声にして出すと、他の客たちがどっと笑った。

「仁義なき戦い」で文太の広能親分がガサ入れに来た刑事に逮捕状を見せられ、ワッパをかけられると曇り空を見上げて、「……税金の無駄遣いじゃのお」と愚痴る。ヤクザや学生やホステスで満員の場内が思わず両手を打って爆笑した。いたる場面で「何やっとんねん!」「はよ逃げんか! アホか!」と熱いヤジと笑いが渦巻いていた。

 今の客は“おとなしい”のが取りえだし、口から飛沫など拡散しないしマスクは不要だろと言うと、誰かがまた文句をつける。だから、映画館に行けないのだ。情けないな。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 2

    米挑戦表明の日本ハム上沢直之がやらかした「痛恨過ぎる悪手」…メジャースカウトが指摘

  3. 3

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  4. 4

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 5

    巨人「FA3人取り」の痛すぎる人的代償…小林誠司はプロテクト漏れ濃厚、秋広優人は当落線上か

  1. 6

    斎藤元彦氏がまさかの“出戻り”知事復帰…兵庫県職員は「さらなるモンスター化」に戦々恐々

  2. 7

    「結婚願望」語りは予防線?それとも…Snow Man目黒蓮ファンがざわつく「犬」と「1年後」

  3. 8

    石破首相「集合写真」欠席に続き会議でも非礼…スマホいじり、座ったまま他国首脳と挨拶…《相手もカチンとくるで》とSNS

  4. 9

    W杯本番で「背番号10」を着ける森保J戦士は誰?久保建英、堂安律、南野拓実らで競争激化必至

  5. 10

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動