芸事は積み重ね「やっぱり落語家は歌舞伎見なくちゃダメ」
「やっぱり落語家は歌舞伎を見なくちゃいけません。『七段目』『芝居の喧嘩』『権助芝居』『蛙茶番』『中村仲蔵』『淀五郎』など、歌舞伎が出てくる噺がたくさんありますし、世話物のせりふ回しや所作は落語にも通じます。若手が『七段目を稽古してください』と来るんですが、『仮名手本忠臣蔵は見たの』と聞くと、見たことがないって言う。見なきゃダメだよと言うんです」
一朝が演じる「七段目」「芝居の喧嘩」などは、歌舞伎ファンが聞いて喜ぶネタだ。それは歌舞伎座で働いた経験のみならず、舞台袖や客席で芝居を見ていた蓄積が土台となって噺を形成しているからであろう。
「この噺は芝居のどういう場面か、全部頭に入ってますからイメージが湧くんです。それと、毎日見ていたことで、せりふ回しの呼吸(いき)というのが体に入っている。芝居の情景を頭に浮かべながらせりふをしゃべるので、聞いてるお客さまも頭に情景が浮かぶのでしょう」
昨年、一朝は芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。その理由が、「『淀五郎』の口演において」だった。仮名手本忠臣蔵の四段目が体に入っているからこそ、噺に説得力が出る。そこが選考委員に認められたに違いない。芸事は積み重ねが大事なのだ。=つづく