<37>「結婚おめでとう」に無言だった早貴被告、テレビのカメラマンに舌打ち
「撮影はやめて下さい」
大下さんが運転席から声を出した。早貴被告はアプリコにいるドン・ファンに挨拶することもなく、彼も見送ることもせずに、車は空港に向かって走り去っていった。
彼女からは、うれしいとか、めでたいという晴れがましさはみじんも感じられなかった。むしろ入籍したことを知られたくないという雰囲気だった。
早貴被告が飛行場へ向かった後、大阪から馴染みの愛人がやってきた。松嶋菜々子に似ているので「菜々ちゃん」としておこう。彼女は162センチほどのすらりとしたべっぴんさんである。事件後に週刊誌の報道で知ったが、何かの美人コンテストで入賞していたらしい。私にはそんなことを全く言っていなかった。
美人を鼻にかけることもなく、私とは世間話に興じていた。ナレーター・コンパニオンをしているらしく忙しそうだったが、それでも月に1度ぐらいは田辺の自宅に現れていた。
社長とは都内にある大学に通っていたころからの知り合いで、10年ほどの付き合いらしい。何度かけんか別れをしたらしいが、はた目には社長と仲が良かった。
早貴被告と比較すれば月とスッポンぐらい愛想がいいし、気配りのできる女性でもあった。 =つづく