<67>「気を付けてね」笑顔で見送るドン・ファンと永遠の別れ
待ち合わせをした喫茶店から山道を10分近く走ると、そこがスポーツ施設だった。造られたのはバブルが始まる1980年代後半で、東京ドームがすっぽり入りそうな広大な敷地に建物がポツンポツンとあった。木々の間に朽ちたバンガローが点在し、錆びた金網で囲まれたテニスコートが何面もある。燦々と降り注ぐ春の陽光が照らすコートの真ん中に雑草が生えているので何年も使用されていないのだろう。かつてはここに若い男女の嬌声が響いていたと思うと、切なさが込み上げてきた。
「こんなふうになるなんてむなしいですね」
私はマコやんと一緒に雑草が生い茂っている敷地をグルッと歩きながらつぶやいた。
「相当繁盛したんやろうな」
比較的損傷の少ないバンガローは今でも林間学校に貸し出されているようで、使用上の注意の張り紙があった。温泉の施設もあって湯が張られていたが、古くて狭く、奇麗とは言えない。
施設の創業者は亡くなって時間が経っているらしいが、作業衣姿の奥さんが野崎幸助さんと木陰の椅子に腰掛けていた。