映画が描いた「腐敗」のリアル コンプライアンスの専門家が薦める必見3作品
東京五輪汚職の摘発が止まらない。大会組織委員会は6月末に解散したが、公表された会計報告はザル。東京地検特捜部は参院選後に強制捜査に着手し、元電通役員の大物、高橋治之・元組織委理事を皮切りに、9月14日には「理事にお願いするのは当然じゃないですか」と戦慄の「公開自白」をしたKADOKAWA角川歴彦会長も逮捕した。五輪スポンサー契約を巡る贈収賄汚職がいま暴かれようとしている。こうした「腐敗」のリアルを描いた必見の映画を社会構想大学院大学教授で情報戦略論、コンプライアンスが専門の北島純氏に挙げてもらった。
■ロシアのドーピングの闇を告発した「イカロス」
五輪の腐敗を暴いた映画といえば何といっても「イカロス」(2017年)。ソチ五輪(14年)でロシアは最多となる13個の金メダルを獲得したが、実はプーチン大統領の指示で国を挙げてのドーピング(禁止薬物摂取)とその隠蔽工作が行われていた。監督ブライアン・フォーゲルは自転車競技におけるドーピングの効果を追体験すべくモスクワのアンチドーピング研究所所長だったグリゴリー・ロドチェンコフの協力を得て実験映画を製作していたが、その最中の14年12月、ドイツ国営放送(ARD)ドキュメンタリー番組「ドーピング~ロシア陸上チーム・暴かれた実態~」が放映され世界に激震が走る。ここから映画がロシアの陸上界ドーピングの中心人物だったロドチェンコフに焦点を当て、その米国脱出と内部告発をリアルタイムで描くさまは圧巻。ネット配信映画として史上初となるアカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞した。プーチンはソチ五輪「成功」直後に国威発揚の勢いでウクライナに侵攻しクリミア半島を併合、ロドチェンコフはFSB(旧KGB)に命を狙われているとして現在もFBIの証人保護下にある。
五輪におけるドーピング疑惑に対して世界反ドーピング機関(WADA)が実施した調査で浮かび上がったのが東京五輪招致贈賄疑惑だ。「日本人は400万~500万ドルを支払った。2020大会は東京が獲得した」とWADA報告書が指摘したことを端緒に仏検察が捜査を開始。現在の東京地検特捜部による捜査はその延長線上に位置する。賄賂であることを「知らなかった」という抗弁はこの時から繰り返されている。