「北斗の拳」連載開始40周年 生みの親が語る 武論尊「先を考えて物語を作ると、読者に見抜かれる」
「一番好きですね、ジャギが」
ケンシロウの胸についた「7つの傷」をめぐるストーリーは、後付けの真骨頂だ。
「胸の傷はファッションみたいなもので、とりあえず、カッコいいからつけておいた。その後、ユリアをさらったシンが実は傷をつけたって話を思いついたときに、自分でもびっくりした。俺すげえわって(笑)」
自らを「詐欺師」と形容する性格はキャラクターにも反映されているという。北斗四兄弟の三男ジャギだ。
「一番好きですね、ジャギが。勝つためには何でもする。欲望に忠実で、人間ぽくていいですよね。強い兄弟に嫉妬して、コンプレックスを抱えている。例えるなら、他の兄弟が東大に行ったから、ジャギも本当は東大に行きたかったんですよ(笑)。本人は受験すれば絶対受かると思っているんだけど、周囲から『おまえはやめとけ』と。『俺だって、本当はできるのに……』っていう哀しさですよね。だから、ジャギは『俺の名前を言ってみろ』ってセリフを周囲に吐く。自己顕示欲です。自分の胸に弟ケンシロウと同じ7つの傷をつけて、弟になりすました時の屈辱たるや、相当だったでしょうね」
「北斗の拳」は“大きな風呂敷”だった。人生にも通ずる考え方だ。
「大風呂敷を広げても、その中で話を展開していくと、必ず畳める時が来る。『北斗の拳』だって、近未来の拳法モノという大風呂敷を広げ、四隅からまとめて、最終的に畳めた。現実の世界では、そう簡単ではないかもしれないけれど、大きな目標を掲げるだけでもモチベーションは上がる。むちゃな目標を掲げれば、周りから『おまえアホか』って言われても、踏み出す一歩が普通の一歩よりも大きいような気がしない? 小さな目標だったら踏み出す一歩も小さいけど、目標が大きければ、大きく踏み出せそうな気がする。あ、いいこと言ってるな、俺(笑)」
▽武論尊(ぶろんそん) 1947年、長野県生まれ。中学卒業後、自衛隊に入隊。除隊後、72年に漫画原作者としてデビュー。代表作に「ドーベルマン刑事」「サンクチュアリ」「HEAT─灼熱─」など多数。現在、ビッグコミック増刊号(小学館)で「Too BEAT」を連載中。別ペンネームは史村翔。