加賀まりこさんと猫の「宙(そら)」 いま初めて語る、猫との愛の日々 虹の橋を渡った18年来の“我が子”

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 女優・加賀まりこが60歳のとき出会ったのは、生後わずか数日の赤ちゃん猫。「宙」と名づけて18年間一緒に暮らしたが、一昨年2月、この世を去った。

「いまだに宙を思うと、もうダメ。何でもあのコがいること前提だったから」と、話していると声を震わせ目が潤む。「恋人以上」の存在だった愛猫・宙との日々を、旅立ってから2年弱を経て、今、初めて語る。

■何で「宙」と名づけたかって?空から降ってきたからよ

 私は兄夫婦たちと神楽坂に住んでいるんだけど、ある日お隣との境の塀の上から、野良のお母さん猫がポトンと植え込みに子猫を落としたの。文字どおり猫が空から降ってきたのよ! お母さん猫はわが家の猫好きを知っていて、この家ならきっと子猫を育ててくれると思って託したんでしょうね。まだ目も開いていなかったし、家にいた先住猫に縄張り意識でいじめられたりしちゃ可哀想だと思って、私が自分の部屋でミルクで育てたの。2004年の春だったわ。

小さくて放っておけなかったから、仕事場にも連れてった

 生まれた直後から世話したんですもの、産んではいないけどほとんど母です。だから撮影の現場にも連れて行った。宙は人見知りをしないから、カメラマンとかスタッフとか、みんなに可愛がってもらったわね。

■化粧品の匂いが好きだったのは、私の匂いだと思って安心したんだね

 撮影が長引くときも、楽屋のメーク道具の前でお利口さんにして待っていた。本当にちっちゃい頃、私の部屋で一人ぼっちでお留守番してたとき、部屋にあった私の化粧品の匂いに慣れていたんじゃないかしら。だからその匂いを私だと思ってたのかもね。

夜中に外に出せって、甘い声で鳴く。不良息子はなかなか帰ってこない

 でも男のコだからかしらね、夜中、洗面所の細い窓のところへ行って、外に出せって鳴くの。甘えた声で鳴かれると負けちゃう。「わかった、じゃあすぐ帰っておいで」とかって言って出すんだけど、どこに行ってんだかわかんない。いつ帰ってくるかわからない宙を、寒いのに窓を開けたまま、私はずっと待ってる。宙は私が待ってるって知ってるから、安心して外で遊んでるのよ。

■猫は恋人以上よ。男なんて目じゃないわ

 私、宙が嫌がることは、どんなこともしなかった。プライベートでは爪も伸ばさなかったし、マニキュアもしなかったわ。仕事で爪に何かつけてると、宙は嫌がって前脚で押すの。だからやめた。恋人にやめろって言われても、私はやめなかったかもね。

猫のツンデレ、あれは絶妙よね。どんな手だれ男もかなわない

 猫って何だろう? 心を騒がすけれども、落ち着けてもくれる。私、猫のもつ距離感というか、ベタベタのときとツンツンしてるとき、あのツンデレ具合がとっても好きよ。猫がいないと困るのよね。本当にいま、困ってる。

■亡くなるときも、一人で階段を下りて私のところへやってきた

 今でこそ語れるけど、獣医さんにもう覚悟してくださいって言われた日。猫って人知れず隠れて逝くって言うじゃない。だから宙が好きだった3階の私の部屋に抱いて連れてって、暗くして寝かせたの。でも私が下の階に行くと、階段を一人で下りる体力なんてないはずなのに下りてきて、私の足元に寝そべった。最期まで一緒にいたかったのかしらね。

今でも毎朝「宙」に挨拶しないと、一日が始まらないの

 亡くなって2年弱経った今も、宙のことを思わない日はないわ。毎朝、宙のお位牌に手を合わせて、「一緒にいてくれてありがとね」って言ってる。

 私も年齢を重ねてきたからいろいろな別れを経験してるけど、人との別れと猫とはまた別。猫は言葉が通じないからこそ、やっぱりすごく大事なのよ。本当にこんなに大事だったんだって、今もずっと、ひしひしと……。

 ◇  ◇  ◇

 インタビューの翌日、加賀まりこさんご本人から電話があった。

「昨日は久しぶりに宙のことをしゃべったから、胸がいっぱいになっちゃって……。うまくお話しできなくてごめんなさいね」

 大女優のこの心配り。こんな加賀さんの愛情を一身に受けたのだから、宙ちゃんの猫生が幸せでなかったわけがない。そしてもし生まれ変わるとしたら、絶対に加賀さんのもとに帰ってくるはずだ。

(取材・文=鈴木美紀)

▽加賀まりこ(かが・まりこ) 1943年、東京・神田生まれ。高校在学中、路上で篠田正浩と寺山修司にスカウトされ、テレビドラマでデビュー。以来、テレビ、映画、舞台、バラエティーなどでも活躍。映画「夕暮まで」でブルーリボン助演女優賞、「泥の河」でキネマ旬報助演女優賞を受賞。80歳になった今も健在の美貌で男性ファンはもちろん、飾らない言動で女性からも支持されている。

(日刊ゲンダイ特別号「日刊ニャンダイ」より)

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