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永田宏長浜バイオ大学コンピュータバイオサイエンス学科教授

筑波大理工学研究科修士課程修了。オリンパス光学工業、KDDI研究所、タケダライフサイエンスリサーチセンター客員研究員、鈴鹿医療科学大学医用工学部教授を歴任。オープンデータを利用して、医療介護政策の分析や、医療資源の分布等に関する研究、国民の消費動向からみた健康と疾病予防の解析などを行っている。「血液型 で分かるなりやすい病気なりにくい病気」など著書多数。

孤独<6>遺伝子検査で自殺リスクが分かる?

公開日: 更新日:

 遺伝子レベルで自殺の研究が進んでいます。自殺者や自殺願望の強い人と、そうでない人のサンプルを集め、遺伝子を比較して、違いを見つけだそうというのです。

 すでにいくつかの遺伝子が候補として見つかっています。中でもアメリカのジョンズ・ホプキンス大学で行われた研究が有名です。自殺を試みた262人の被験者を調べて、SKA2と呼ばれる遺伝子の働きが下がっていることを明らかにしたのです(American Journal of Psychiatry/2014年)。この遺伝子は、悲観的な感情や、それに伴う衝動的な行動を抑える働きがあるとされています。いわば「自殺予防遺伝子」です。

 ただし、SKA2の塩基配列(遺伝情報)自体には、これといった違いは見つかりません。ところが自殺願望の強い人では、SKA2にメチル基と呼ばれる小さな分子が結合(メチル化)していることが分かったのです。

 体内では、SKA2に限らず、さまざまな遺伝子をメチル化したり、脱メチル化(メチル基を外す)したりして、その働きを調整しています。メチル化すると、遺伝子のスイッチが、いわばオフの状態になります。脱メチル化すれば、再びオンになります。このような遺伝子の制御を「エピジェネティクス」と総称しています。どんなきっかけで、どの遺伝子がオン/オフするのか、まだほとんど分かっていません。またエピジェネティクスは後天的なものなので、親から子へと遺伝することはないとされています。自殺願望が強い人は、メチル化によりSKA2遺伝子がオフ状態になっていた。そのため、自分の感情を抑えきれず、行動に及んでしまったと考えられます。なぜSKA2遺伝子がオフになったのか、原因は分かっていません。しかし、孤独感が強い人ほど自殺傾向が強いのですから、逆に孤独感こそがSKA2遺伝子のスイッチをオフにする有力な要因のひとつなのかもしれません。

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