<8>食事や運動でがん発症リスクが下げられるのはなぜか?
がんは遺伝子変異による病気で、変異をもたらす原因の多くは細胞分裂時のDNAのコピーミスや細胞酸化などで避けられない。これが事実としたら、がん予防のための食事や運動は意味がないのだろうか?
国際医療福祉大学病院内科学教授でがんや最新の遺伝子学に詳しい一石英一郎医師が言う。
「そうではありません。生命の設計図であるDNA情報からさまざまなタンパク質がつくられ、臓器などがつくられますが、それは状況や環境に応じて変化することがあります。食事で取った栄養素や運動により体内でつくられたホルモン様の物質などは設計図が書かれている遺伝子の翻訳や転写を“オン・オフ”にすることが可能なのです。それがエピジェネティクスと呼ばれるものです」
エピジェネティクスを専門的に言うと、「遺伝情報であるDNAの塩基配列を伴わずに、後天的な化学修飾によって遺伝子制御される現象」のこと。具体的には遺伝子を使うか使わないかを制御しているDNAのプロモーター部分をメチル化することだ。
「DNAにはACGTの4つの塩基がありますが、メチル化とはC(シトシン)にメチル基がくっつくことを言います。その結果、その遺伝子が動かなくなる。これがエピジェネティクスです」