東大病院のマイトラクリップによる死亡事故で考えられること
そのうえで、心房中隔に穴を開ける「ブロッケンブロー法」という特別な手技の行程に問題があったことも考えられます。僧帽弁は左心房と左心室の間にあります。クリップの付いたカテーテルを下肢の静脈から挿入してそこまで到達させるには、まず右心房に入ってから心房の壁である心房中隔に穴を開け、その穴から左心房に進める行程が必要です。
心臓を動かしたまま心房中隔を穿刺するので、医師の経験値が求められます。かつてはレントゲンのみを見ながら行われていたので難易度の高い手技でしたが、近年は心臓のすぐ後ろ側を走っている食道側から直接心臓をモニターできる経食道心臓エコーや、先端にさまざまなセンサーが付いたカテーテルなどの進歩によって、以前よりは安全に行えるようになりました。
それでも、心房中隔の弾力性によって穿刺しづらい患者さんがいたり、少しずれた場所を穿刺してしまうと大動脈に刺さって大量出血してしまうケースもあるため、やはり医師の経験値は重要です。私が順天堂医院に赴任した02年ごろに同様の事故があったことで、それ以来、ブロッケンブロー法による治療は一切行われなかった時期がありました。
今回、亡くなった男性患者は肺に傷がつく気胸を起こしていたので、穿刺の過程で何らかのトラブルがあったのかもしれません。
次回もマイトラクリップについて取り上げます。