「そうだったのか」池上彰に頷く人は前頭葉を使っていない
ヒトの脳の重さは、子供で400グラムほど。男性の場合、20歳くらいをピークに1400グラムほどに“育つ”ものの、その後はゆっくりと萎縮し、重量は減少する。20歳以降は、1日に10万個の神経細胞が死滅するともいわれるが、救いがないわけではない。
ヒトの脳の構造をイラストで見たことがある人は多いだろう。最も大きな部分を占めるのが大脳で、その一部に前頭葉がある。大脳の前部分にあり、思考やヤル気、感情や理性をつかさどる大事な部分だ。病気やケガで前頭葉に障害が起きると、その機能が低下。きちょうめんな人がだらしなくなったり、幼稚になったり、一日中ボーッとしたりするようになるともいわれている。
日刊ゲンダイで「認知症 絶対やってはいけないこと」を連載中の精神科医の和田秀樹氏は、この前頭葉に注目する。
「脳の写真を見ると、我々は40~50歳くらいになると、前頭葉に隙間ができ始める。脳細胞に縮みが目立ち始めるんですね。そこで何が起きてくるかというと、いろんなことに対しておっくうになる、意欲が落ちる、キレやすくなるなど、感情のコントロールが次第に悪くなってしまう。加えて新しいことへの適応力も悪くなります。とりわけ、高齢者の意欲の低下は先々ボケることにつながりかねません。それを予防するためには前頭葉を使わなければいけない。前頭葉を使い続けて意欲があれば、年を取っても頭も体も元気でいられるのです」
アカデミー賞受賞作、「カッコーの巣の上で」の劇中で、反抗的で凶暴な性格の主人公が病院で受けた手術によって、言葉も話せないほどおとなしくなってしまう。実はあの手術こそが、大脳を切り取るロボトミーだ。前頭葉を切除した結果、知能そのものが落ちるわけではないのに、感情のコントロールが利かなくなって、まるで意欲のない人間に変わってしまったのである。年齢を重ねて脳内の前頭葉の細胞の萎縮が進むと、似たような状況が起きるのだから恐ろしい。
「前頭葉が縮んでくると生活面でも行動に特徴が出てきます。それは“これまで通り”が当たり前になり、変化を求めなくなります。具体的には、行きつけの店が決まると他にはいかなくなるとか、ある著者のファンになるとその人の本しか読まなくなる――などです。新しいことへの適応力が悪くなり、思考パターンが同じになってしまうわけです」(和田秀樹氏)
年を取ってくると、頑固で自分の考えを曲げない石頭が増えてくる。「頑固ジジイ」というではないか。これも前頭葉の萎縮が影響しているのだろうか。
だからこそ、前頭葉は普段から“もっと使うべき”なのだ。
■テレビコメンテーターにはツッコミを
どんなトレーニングをするのが効果的かというと――。
「ひとつは前頭葉の血流を良くすること。それには計算をする、音読をするなどが良いとされています。“100マス計算”をすると子供が意欲的になったりするのがいい例です。コレも悪くないけど、もっと前頭葉を使う方法があります。たとえば、テレビを見ながらコメンテーターの意見に突っ込みを入れること。本当にそうか? なぜ、言い切れるのか――と。これが創造性を鍛えるトレーニングになる。池上彰サンの解説を聞いて、“そうだったのか”と納得していては前頭葉を使っていないも同然。サラリーマンなら、いつも上司の言うことをうのみにするイエスマンも使っていません。疑問を持ったり、反対意見を言うことが前頭葉を使う訓練になります」(和田秀樹氏)
読書は、普段読んでいる著者の逆の意見の本を読んでみる。会社帰りに一杯やるときは、行きつけではなくて新しい店に入る。安倍政権に変なことをされたら腹を立てる――なども訓練に役立つそうだ。
前頭葉をバンバン使って脳に刺激を与えれば、意欲的な年寄りになる確率はグンとアップ。今夜からチャレンジしよう。