ふさぎ込んでいた乳がん患者を前向きにさせた実家での出来事
「今度は私がそちらにお世話になりますので、よろしくお願いします」
■「見守っている」と言われている気がした
弟は、「久しぶりに裏山の風穴に行ってみるか?」と誘ってくれました。中学生の時に遠足で訪れて以来です。
山の方へ向かって約30分、途中、ユキヤナギの白い花が山道を飾っていました。車を降りてしばらく歩くと、一面、緑の大きなくぼ地があります。座って穴に顔を近づけると、風が吹いてくるのが分かりました。Sさんは手術した右側の手をかざして祈りました。
「この腕を清めてください!」
近くの山寺から町一面を見渡した後、山を下って帰りました。古い家に戻って仏間で一息つくと、欄間に掲げてある祖父、祖母、父、母の大きな写真が目に入ります。
おじいさんは川で泳ぎを教えてくれた。おばあさんは、ままごとで遊んでくれた。お父さんは私がいつも徒競走でビリになっても、親が参加する競技に出て1等になって私に賞品をくれた。お母さんはいつもお弁当をつくってくれた……。