ふさぎ込んでいた乳がん患者を前向きにさせた実家での出来事
退院後、Sさんはホルモン療法と抗がん剤治療を受けることになりました。抗がん剤は、3週間に1回、計4回行いました。「頭髪が抜ける」と言われたので、前もって短く切り揃えてウィッグを用意したのですが、さすがにバッサリ抜けてきたことには驚き、とても憂鬱になりました。しかも、ホルモン剤はこの先10年間も飲むのだそうです。
「今まで、人生で良かったことなんて何もなかった。勉強はクラスで中の上くらい。運動会ではいつもビリだったし、合唱コンクールは予選落ち……。結婚することもなく、子供もいない。そして乳がん。私の人生ってなんなのでしょう? 生まれてきたって仕方がない、意味のない人生なのかしら……」
会社からは抗がん剤治療が終わるまで4カ月間の休みをもらいました。
最後の抗がん剤治療が終わると、Sさんは弟に連絡して久しぶりに田舎に帰ってみました。お花を持って、弟が先祖代々のお墓に車で連れて行ってくれました。
お墓のそばにある桜はすでに咲き始めています。「乳がんはステージⅡBだから死ぬことはない。大丈夫」と思いながらも、手を合わせて心の中で父母にこう話しかけました。