専門医がすすめる 尿の異常を知るための2日間「排尿日誌」
急にトイレに行きたくなり、我慢できないほどの尿意切迫感が起こって頻尿を伴う「過活動膀胱」、トイレに間に合わず漏れてしまう「切迫性尿失禁」、咳やくしゃみなどでお腹に強い力がかかると漏れる「腹圧性尿失禁」など、尿トラブルは加齢に伴って増えてくる。
しかし、尿失禁はひとつの原因からどれも同じように起こるものではない。また、頻尿になるのは、尿の量が多い場合と、膀胱そのものが小さい場合、あるいは膀胱自体は大きいけれど残尿が多いために膀胱の使える部分が小さい場合、といったように分かれる。それに尿の量が多くて頻尿になるのは、膀胱に関する限り異常ではない。
日常的に多尿だという場合、糖尿病や尿崩症など他の病気の疑いがあるのだ。そのため、尿トラブルが気になり始めたら、その症状を自分で把握しておくことが大切になる。泌尿器科を受診するにしても、的確に自分の排尿状態を医師に伝えることができればコミュニケーションがスムーズになる。排尿状態のどんなことをチェックすればいいのか。
「尿トラブルは自宅で治せる」(東洋経済新報社)の著者で「永弘クリニック」(埼玉県新座市)の楠山弘之院長が言う。
「自分の排尿状態の特徴を確かめるには、『排尿日誌』をつけるのが有効です。これは私たち医師が、尿失禁の患者さんを診断するときにつけてもらうよう勧めている排尿の記録です。排尿日誌では次のことを記録します。何時ごろ、何ミリリットルぐらいの尿が出たか。そのとき尿意はあったか。尿を出しにくいことがあったか。どんなときに尿失禁があったか。どれくらいの量の尿失禁だったか、などを記入します」
日誌をつける方法は難しく考える必要はない。排尿時の時刻と尿量、排尿時や尿失禁のときの様子が分かればいい。
■排尿日誌をつける方法
①トイレで排尿するとき、1回ごとの尿の量を計量カップで量る。その量は10ミリリットル単位で記入する(厳密に量る必要はない)。
②排尿のたびに時刻を記入する。そのときに、尿意があったかどうか、尿が出にくかったかどうかも記入しておく。
③尿失禁があったら、時刻と大体の量、そのときの様子を記入する。たとえば、急にトイレに行きたくなって間に合わなかった、くしゃみや大笑いしたときに起きたなど。
④記入し始めるのはいつでも構わない。そこからちょうど24時間までを1日目とし、それ以降を2日目として記入する。丸2日分を記入して終了。
尿量は計量カップで量るが、特別な容器でなくても構わない。大きめの料理用計量カップでなくても、大きめのペットボトルを半分くらいに切ったものを用意し、それにマジックで目盛りをつけて計量カップにしてもいい。500ミリリットルくらい入るものを用意し、50ミリリットルずつ目盛りをつける。尿の計量は10ミリリットル単位で行うが、50ミリリットルの目盛りであとは目分量で量って構わない。排尿日誌をつける期間は2日間連続して実施すれば十分。
医療機関では、もっと長く続けることを勧められる場合もあるが、短期間でもきちんと実施することが重要になる。また、なるべく自宅にいる日に実施する。外出時に排尿があったときには、その時刻と大体の量(多いか、少ないか)を記録する。
では、排尿日誌からどのようなことが分かるのか。
「排尿日誌をつけて一番分かりやすくなるのは、腹圧性尿失禁と切迫性尿失禁の区別です。切迫性尿失禁のときは、トイレに行きたいという意識があって、それで間に合わないというのが最大の特徴です。腹圧性の場合は、トイレに行こうとすることとは関係なく、そのきっかけになるようなことが前にあります。そして次に、1回の尿量と排尿の回数、1日の尿の総量を確かめることで、膀胱の様子や尿に関する異常が分かります」
1日の尿の総量が極端に多ければ糖尿病や尿崩症を疑わなければいけないし、他にも尿を濃縮できなくて多くの尿が出るという病気のケースもある。尿が異常に多すぎると判断されるのは1日3000ミリリットル以上。逆に、尿量が非常に少なくて1日に700ミリリットルまでいかない場合は腎臓の機能が悪くなっている可能性がある。
頻尿の基準は1日に8回以上が基準になるが、1日の総量が正常な範囲なら問題ない。頻尿の目安は、1回の尿量が1日平均で150ミリリットル以下であり、しかも排尿の回数が8回以上の場合になるという。
次回は、尿失禁の重症度を判定する「パッドテスト」を紹介する。