がんと闘うお笑い芸人オガタ。さん「肛門付近にラスボス感のある塊が…」

公開日: 更新日:

オガタ。さん(ザ・ギンギンマル/35歳)=大腸がん

「大腸がん」の手術のあと、肝臓への転移を経て今年3月に大腿骨骨頭にも転移が見つかりまして、今は治験の抗がん剤で治療中です。

 でも、治験って対象になれるかなれないかの審査があるうえ、新薬と現状ある薬の比較を試すので、どっちの薬になるかはコンピューターが決めるんですよ。僕は審査はパスしたけれど現状ある薬を担当することになり、当たったのにハズレみたいな感じで(笑)。今のところ一進一退。薬と骨のがんがかなり拮抗していて、最近やっと少しだけ小さくなりかけてきたところです。

 大腸がんが見つかったのは2020年11月でした。高校生の頃から切れ痔で病院に通っていたので、出血は珍しいことではなかったのですが、いつもなら薬を塗ればすぐに治っていたのに、9月のそのときはズキンズキンとした鈍痛がしばらく続いたのです。

 そんなときに痔で手術をするという後輩がいて、「早めに病院に行ったほうがいいですよ」と勧められました。その言葉に背中を押され、近場の総合病院の肛門科に向かいました。触診をしてすぐに「これは、うちじゃ診れないかな」と、大きな病院を紹介されたのです。

 翌週、大きな病院に行くと「これは精密検査した方がいいな」となり、後日、内視鏡検査を受けました。モニターで腸内部の画面を見ながら大小のポリープをいくつか通りすぎ、肛門付近にくると素人でもわかるようなラスボス感のある塊が見えました。

「やばいですか?」と聞いた僕に、先生は「う~ん、すぐ治るものじゃないかな」と言葉を濁しました。そして検査が終わると「次回は家族の方と一緒に来てください」とおっしゃったのです。内視鏡をするまでは「すんごいでっかいイボ痔でもあるのかな」くらいに思っていましたが、家族と一緒にと言われて「これはやばいやつだ」と確信しました。

 結果発表は父親同伴でした。その父親に向かって、先生はひと呼吸もためることなく「息子さんはステージ3の大腸がんです」とサラッと告げました。

 まるでそよ風のような感じで言葉が通り抜けた感覚です。

 治療は、即手術をして人工肛門になるか、抗がん剤で小さくしてから手術するかの2択でした。でも、「効くかどうかわからない抗がん剤治療で半年経過するよりもすぐがいい」というのが主治医の見解でした。

 抗がん剤でがんが小さくなれば人工肛門を回避できる可能性は残るので、さんざん悩みました。でも手遅れになったら本末転倒だし、相方にも「治すことが先決だろう」と言ってもらって、「即手術」を決意したのです。

 飲食店でのバイトをしながらその日を迎え、7時間の手術でがんの切除と人工肛門の造設が終了しました。

 手術室にモダンなBGMが流れていたのが新鮮な驚きでした。

 人工肛門は排便の感覚がないのが不安でしたが、半年間ぐらいで扱いにも慣れました。

■治療をやり切ったあと、肝臓への転移が見つかる

 2021年6月、抗がん剤治療をしながら「復活祭」と題してお笑いの舞台に立ちました。「おかえり!」というお客さんの声がとてもうれしかった。でも半年間の抗がん剤をやり切ったあと、なんと肝臓への転移が見つかりました。それが去年の9月です。

 がん研有明病院を紹介され、肝臓の専門医を受診しました。精密検査でがんが12個見つかったけれど、すべて肝臓の表面にとどまっていることから、その部分をそぐように切除手術をしたのです。でもホッとしたのもつかの間、3カ月検診で肝臓への再転移が見つかりました。主治医の見解によると、そこまでは想定の範囲内だったようです。ただ肝臓の再手術のための検査をしていたら、股関節にある大腿骨骨頭に転移が見つかって、肝臓の再手術は中止になり、再び抗がん剤治療になりました。

 使える抗がん剤はその時点で2つしかなく、その1つを3カ月試しましたが効果なし。残ったのは治療というより「延命的」なものだと告げられたときが、今思えば一番ショックでした。そのあと、前述した治験の話が出て、現在は治験抗がん剤の2クール目。何クールやるかは状態を見ながらなので、いつ終わるのかわかりません。

 日常生活では股関節に負荷をかけないよう移動には杖を使います。時々、脚に痛みはありますけど、今のところ肝臓の数値は正常ですし、大腸も問題なく元気です。

「延命的な抗がん剤しか残っていない」と言われたときには本当に落ち込んで、1週間ほど食事もろくに取れませんでした。でもバイトに行こうとして鏡を見たとき、自分の姿が悲しすぎて「これじゃいかん」と思ったんですよね。極め付きはライブの舞台。立つたびに「やっぱりこれだな。これをやり続けるために治そう」と思えるんです。落ち込んでなんかいられません。

(聞き手=松永詠美子)

▽尾形友道(おがた・ともみち)1986年、山形県生まれ。2014年に長谷川デビルマルと漫才コンビ「パシフィックオーシャンパーク」を結成。間もなく「ザ・ギンギンマル」に改名、「オガタ。」として活動。療養による活動休止を経て21年6月に復帰、治療をしながらライブを中心に活動中。

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇