元芸人の宮野貴至さんは希少がんで左腕切断を即決…実はイキッていた

公開日: 更新日:

宮野貴至さん(ユーチューバー、元芸人/26歳)=類上皮血管肉腫+類上皮肉腫

「類上皮血管肉腫」は100万人に1人、「類上皮肉腫」は年間罹患数20~30人という希少がんで、両方を発症したケースは、今のところWHO(世界保健機関)には報告がないそうです。世界でたった1人の病気にかかりました。

 初めは左手の親指の付け根にできた小さな傷でした。それから約5年後の去年6月に、まさか肩から左腕を切断することになるとはね。そんなこともあるので、みなさん、傷に限らず不調が続いたら病院へ行きましょうって話です。

 左手親指の付け根にニキビみたいなものができていて、それにバスケットボールが当たって傷になったのが20歳のときでした。治りかけるとかさぶたになるじゃないですか。僕はアレ、取りたくなっちゃうタイプなんです。かさぶたができては剥がす--を繰り返した結果、悪化していったのですけど、痛くなかったので「イヤ、まだいける。大したことないやろ」と思ってしまったのです。

 そのうち見た目がジュクジュクしてきて、ズキズキ痛み出したので、町医者に行ったのが去年。するとすぐに大学病院を紹介され、検査の結果「血管肉腫」と判明。ただ、正式な病名がわかったのは手術をした後でした。大学病院からがん専門病院を紹介され、病理検査を受けた結果、肘や脇にも腫瘍があって、鎖骨の途中から肩甲骨も含めて左腕を切断するのが、今できるベストな治療だと告げられました。

 告知される様子を撮影して、人生初のユーチューブ動画にしたら再生数がすごいことになって驚きました。動機は「小さい傷でも放置しすぎたら大変なことになるよ」という注意喚起に加え、こういうときの動画で“ビフォー・アフター”ってあんまりないなと思ってしまったエンタメ精神です。たくさんの方からコメントをいただいたことがうれしくて、今もこうしてお笑い活動ができている気がします。

 動画の中の僕は、厳しい病状説明にも動じることなく、「どうする?」と遠慮がちに尋ねる主治医に、即決で「(腕を)落とした方がいいと思います」と答えています。でも、実はだいぶイキって(強がって)いました。親もいたし、カメラ回していたからできた顔。もし隠しカメラだったら違っていたでしょうね。

■もっと前に出て活躍したい

 切るとか切らないとかの問題よりも、怖かったのは手術前の最終のPET検査でした。もし脇より内側の内臓に転移があったら、ほぼ助かる見込みがないとのことだったので、結果を待つ10日間が一番怖かったです。

 だから手術ができたことは本当にラッキーでした。しかも術後の放射線や抗がん剤はなし。脇のリンパにあった52~53個の腫瘍が術後ゼロになったのです。大きめに切っていただいたのでしょうが、ゼロは結構珍しいことだそうです。

 傷口は痛々しいものの、神経も切っているので術後はしびれた感覚でした。痛かったのは、一部残っている僧帽筋と呼ばれる肩の筋肉。術後3~5日目ぐらいに気絶しそうな筋肉痛に襲われて、看護師さんにさすってもらっていました。腕があるときと同じ筋肉の使い方をしてしまうのでそうなるようです。

 今は3カ月に1度、CT検査をして、再発や転移がないかを調べています。10年ぐらいはフォローが必要のようです。

 最近、遺伝子検査をしたところ、僕は一部の遺伝子に変異があって傷が治りにくい体質とのことで、胃がんやすい臓がんにもなりやすいそう。なのでかさぶたを剥がし続けていたからがんになったというより、もともとがんだった可能性があります。もう少し早く病院に行っていたら、腕を落とさずに済んだかもしれない。傷が小さいとはいえ、さすがに5年は放置しすぎでした(笑)。

 僕は特別明るい性格ではないんですけど、芸人仲間とシェアハウスで3人暮らししていることで悲観的にならずに済んでいます。腕のこともうまいこといじってくれて、うまく笑いに変えてくれるので、それが心地いい。全体にモラルは低いんですけど、ちょうどいい感じで僕がボケられる。

 今はユーチューブをやっていますが、やっぱりテレビに出たいです。もっと前に出て活躍したい。「グレーゾーン」と呼ばれる障がい者や病気のある人に、健常者は触れにくいと思うんです。でも、僕のような人間が前に出ることでその壁を崩したいし、人々に何か考えるきっかけを与えられるかもしれない。なおかつ食えるようになれればもっといい。さらにAYA世代(15~39歳のがん患者)の当事者になったので、課題や問題を勉強しつつ発言していけたらなと考えています。

 おかげさまで、病気をして幸せの基準が変わりました。以前は売れたいとか知名度といったことにギラギラしていましたが、友達や家族と過ごした時間の方が大事だと気づいたんです。ただ、現実的には「あれ? お金ないと結婚できない?」と気づいて、お金はそこそこ欲しいです(笑)。

(聞き手=松永詠美子)

▽宮野貴至(みやの・たかし) 1997年、兵庫県生まれ。20歳で上京し、大学休学中にお笑い芸人養成所に通う。2022年6月にフリー芸人として活動しはじめた直後に病気が見つかり、左腕を切断。ユーチューブチャンネル「片腕男子」を開設し、第1回の動画が670万回以上再生されている。お笑いライブを主催しつつ、病気や障がい者、AYA世代としての発信もできるユーチューバーを目指している。https://www.youtube.com/@ude-miyano

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

■関連キーワード

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    西武ならレギュラー?FA権行使の阪神・原口文仁にオリ、楽天、ロッテからも意外な需要

  2. 2

    家族も困惑…阪神ドラ1大山悠輔を襲った“金本血縁”騒動

  3. 3

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  4. 4

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏の勝因は「SNS戦略」って本当?TV情報番組では法規制に言及したタレントも

  5. 5

    小泉今日子×小林聡美「団地のふたり」も《もう見ない》…“バディー”ドラマ「喧嘩シーン」への嫌悪感

  1. 6

    国内男子ツアーの惨状招いた「元凶」…虫食い日程、録画放送、低レベルなコース

  2. 7

    ヤンキース、カブス、パドレスが佐々木朗希の「勝気な生意気根性」に付け入る…代理人はド軍との密約否定

  3. 8

    首都圏の「住み続けたい駅」1位、2位の超意外! かつて人気の吉祥寺は46位、代官山は15位

  4. 9

    兵庫県知事選・斎藤元彦氏圧勝のウラ パワハラ疑惑の前職を勝たせた「同情論」と「陰謀論」

  5. 10

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇