心当たりは大ありでした…ギタリストの山下拓実さんバセドー病を語る

公開日: 更新日:

山下拓実さん(ギタリスト/36歳)=バセドー病

 2017年、それまで毎日やっていたランニングの最中に乗り物酔いのような状態になって、嘔吐しちゃったんです。たまたまかなと思ったんですけど、ライブをやるたびに体調が悪くて、マネジャーに症状を話したら、「知り合いに同じような人がいた。もしかしたらバセドー病かも?」と言われ、甲状腺の病院に行ったのです。すると、血液検査の結果を待たずに医師から「90%バセドー病ですね」と言われました。

 念のため原宿にある甲状腺疾患専門の伊藤病院でセカンドオピニオンを受けましたが、やはり同じ診断だったので、「これは間違いない」と病気を受け入れました。

 医師の話によるとバセドー病は80%遺伝で、遺伝じゃない場合は、相当ハードなトレーニングをしたことが原因である場合が多いそうです。家族の周りにこの病気の人はいないので、原因は後者。心当たりは大ありでした。

 その2年ぐらい前からランニングを始めたのです。バンドマンも多数参加している特殊なランニングの会があって、そこで毎日10キロ走るようになりました。走るのは嫌いだったんですけど、30歳を前にして自分を変えたくて……。あえて嫌いなことを毎日やるって、大人になるとないじゃないですか。「自分に足りないのはこういうことだな」と思ったんです。

 ただ、やると決めたら徹底的にやる性格なので、やりすぎちゃったようです。集団で走るのではなく、ネットで情報を共有しあって個々で走るのですけど、病気がわかるまでの540日間、1日も休まず毎日10キロ走っていました。しかも50分以内で走るルールがあるので常にフルスピード。ハーフマラソン並みの距離を走ることも度々ありました。天気なんて関係ありません。嵐だろうが、炎天下だろうがお構いなし。ツアー中、北海道の雪の中でも走りました。なんと、函館フルマラソンに参加したこともあります。

 そのうえ、週4日ジムに通い、グルテンフリーにはまって食事制限もプラス。股関節が痛くなったときは、ゴッドハンドと呼ばれるスポーツトレーナーに鍼を打ってもらってまで走りましたから、どうかしてますよね(笑)。0か100かに振り切ってしまう極端なところがあって、ものすごく健康オタクになったのに、結果として病気になっちゃった(笑)。たぶん心が強くなりすぎて、体が悲鳴を上げていることに気づかなくて自律神経がやられちゃったんです。

 バセドー病は、代謝をつかさどる甲状腺ホルモンが過剰になる病気で、何もしなくても異常に疲れる。走っていた540日の間に体重が68キロから50キロまで減少していました。

■1カ月間バンドを離れて休養

 治療は手術か、甲状腺ホルモンが過剰に作られるのを抑える内服薬かの選択肢があって、内服薬を選びました。

 その頃の症状は、疲労がまったく取れない感じ。仕事して帰ってきて疲れて寝るのに、朝起きても夜の疲れが残ったまま……。それが続くと精神的に不安定になって、うつ状態になりました。バンドのメンバーとのケンカが絶えなくなり、「もうやめる!」とスタジオから出て行ったこともあります。病気の人の気持ちは、病気にならないとわからないものですけど、当時はうつに対する理解がないことが耐えられなかった。それで1カ月間、バンドから離れて休養しました。

 病気がわかってから運動をやめ、毎日処方された薬を飲むことしかしてなかったです。ベース担当のメンバーがときどき家に来てくれて、バンドとの仲をつないでくれましたね。

 何のタイミングか忘れましたけど、症状が出なくなり、甲状腺ホルモンの数値が正常になったので、医師に薬を飲まずに改善する方法を相談しました。すると、食生活や生活習慣で改善の余地があると言われたので、肉中心の食生活から野菜多めを心がけ、すっかり和食好きになりました。

 3~4年はほぼ運動をしませんでしたが、去年から1日1万歩程度のウオーキングを始めて、9月から12月末までまた10キロランニングを再開しました。

 じつは、今年はバンド結成20周年なんです。ダラダラした感じで20周年を迎えるのが嫌だったのと、病気のせいにして走っていない自分が許せなくなったのが再開の理由。でも、50分以内はさすがにきついので1時間ちょいかけて気持ち良く走るようになりました。そうしたら体調がいいんですよ。今年に入ってからは週に1~2回、時間のあるときに走っています。

 声を大にして言いたいのは「やりすぎはダメ」ってこと。それって、やらないとわからなかったことだからマジ学びました。

(聞き手=松永詠美子)

▽山下拓実(やました・たくみ) 1986年、米国生まれ、鹿児島育ち。ロックバンド「MAGICOFLiFE」のギター担当。アニメ「弱虫ペダル」や「ジョーカー・ゲーム」の楽曲を担当。現在、結成20周年記念ライブツアー中。3月25日「渋谷SpotifyO-Crest」、4月22日「HEAVEN'SROCK宇都宮VJ-2」など、7月まで続く。記念フルアルバム制作のためのクラウドファンディングは3月30日まで。<https://ubgoe.com/projects/285>

■本コラム待望の書籍化!愉快な病人たち(講談社 税込み1540円)好評発売中!

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    無教養キムタクまたも露呈…ラジオで「故・西田敏行さんは虹の橋を渡った」と発言し物議

  2. 2

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  3. 3

    吉川ひなのだけじゃない! カネ、洗脳…芸能界“毒親”伝説

  4. 4

    大谷翔平の28年ロス五輪出場が困難な「3つの理由」 選手会専務理事と直接会談も“武器”にならず

  5. 5

    竹内結子さん急死 ロケ現場で訃報を聞いたキムタクの慟哭

  1. 6

    ロッテ佐々木朗希は母親と一緒に「米国に行かせろ」の一点張り…繰り広げられる泥沼交渉劇

  2. 7

    木村拓哉"失言3連発"で「地上波から消滅」危機…スポンサーがヒヤヒヤする危なっかしい言動

  3. 8

    Rソックス3A上沢直之に巨人が食いつく…本人はメジャー挑戦続行を明言せず

  4. 9

    9000人をリストラする日産自動車を“買収”するのは三菱商事か、ホンダなのか?

  5. 10

    立花孝志氏『家から出てこいよ』演説にソックリと指摘…大阪市長時代の橋下徹氏「TM演説」の中身と顛末