論文世界と現実とのギャップを考える…人種より個々のばらつき
今回はバングラディッシュで行われたランダム化比較試験を例に、論文世界と現実のギャップについて具体的に検討したい。
この場合、いくつかの問題がある。決定的なのは論文の参加者と論文を元に実際の判断をする目の前の個人はそもそも別であり、ましてバングラディッシュ人と日本人は違うだろうという批判がある。海外のデータを示すと、日本人のデータでなければ意味がないと言われたりする。
これに対してはこの連載で繰り返し述べてきたように、人種差よりも同じ人種内のばらつきの方が大きいため、人種の問題より個別の違いに注目して検討したほうが良いというのが原則である。さらに試験管や動物実験のデータよりも、とりあえず同じ人間のデータというところで妥協して、どう役立てるか考えてみるのが現実的な対応だと思う。
どうしても日本人のデータでなければというのであれば、新たに自分で研究するか、日本人の研究結果が出るまで待つしかない。しかし、それを待つよりはとりあえずバングラディッシュの研究を基に考えてみるのもいいではないかという立場である。最善のエビデンスでなくても、現時点で手に入る限りの最良のエビデンスでまず検討するという現実的な対応である。