人種差を問題にしつつ「動物データ」に納得する不思議さ
これまで「情報の正しさ」という問題を繰り返し取り上げてきた。その中でマスクについての情報を「ランダム化比較試験」「メタ分析」と呼ばれる研究結果で見てきた。情報そのものの正しさを最もよく保証するからだ。しかし、そうした情報でさえ、多くの問題があり、正しい情報というには程遠いというのがこれまでの大ざっぱなまとめである。
今回は、「情報そのものの正しさの吟味」に加え、「情報の当てはまりの正しさ」の問題にも触れてみたい。マスクの情報に即して言えば、デンマークやバングラデシュの研究が日本人に当てはまるのか、というわけである。
マスクにしろ、ワクチンにしろ、あるいは治療薬にしろ、日本人を対象とした情報を紹介しないと、「外国人のデータが日本人に当てはまるのか」との批判が出る。人種による違いはあるので、もっともな疑問である。ただ、そうした批判を口にする人たちが平気で動物実験や試験管内のデータを利用して、いろいろモノを言ったりしていることに疑問を呈す声がほとんど聞かれないのはどういうことか。
確認しておきたいのは、動物のデータや試験管内のデータに比べれば、人種の問題は極めて小さいと考えられている。むしろ、動物や試験管内のデータは、基本的には人間には適応できないと考えたほうがいい。それが基本である。以前強調したように、「病態生理」(ヒトが病気になったときに、体内でのメカニズムがどうなっているのか、異常を来している原因はなんなのかを解き明かすこと)は仮説にすぎないというわけである。