医療安全をマスターしていない医師は医療を行ってはいけない
医療安全の考え方というのは、経験が多かろうが少なかろうが、医師にとっては“憲法”のようなものです。すべて条文が記されていて、それにのっとって実行すればいい。そこに書かれている通りに従えば、少なくとも「患者さんの命を守る」という大原則を順守することができるのです。法律家は憲法を知らなければ仕事になりません。医師は技術や経験に加えて医療安全をマスターしていなければ医療を実行してはいけないのです。
「こんな手術は先生しかできませんから、どうしてもお願いしたい」などと持ち上げられ、医療安全を蔑ろにしたむちゃな手術を行って患者さんを死なせてしまうくらいなら、患者さんから「なんで希望する手術をしてくれないのか」などと文句を言われるほうがいい。私がまだ若かった頃、同じようなケースがまったくなかったとはいえませんが、医師が自分は特別だと勘違いして、医療安全を軽視した治療を繰り返せば、それだけ医療事故を起こすリスクは高くなります。
医師の資格があるから多少の危険性があっても高度な医療を行うことが認められている、と主張する医師がいますが、まったく自分勝手な考え方です。高度な医療を展開する前にあらゆる危険性を低減させる手続きを行わなければ、侵襲的な外科治療を行ってはいけないのです。