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天野篤順天堂大学医学部心臓血管外科教授

1955年、埼玉県蓮田市生まれ。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)や新東京病院(千葉県松戸市)などで数多くの手術症例を重ね、02年に現職に就任。これまでに執刀した手術は6500例を超え、98%以上の成功率を収めている。12年2月、東京大学と順天堂大の合同チームで天皇陛下の冠動脈バイパス手術を執刀した。近著に「天職」(プレジデント社)、「100年を生きる 心臓との付き合い方」(講談社ビーシー)、「若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方」(講談社ビーシー)がある。

「騒音」は考えている以上に心臓に悪影響を及ぼす

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ストレスとホルモンが関係している

 騒音がどうして心臓疾患リスクをアップさせるのかについては、「ストレス」と「ホルモン」が関係していると考えられています。騒音は、脳のストレス検知部位である扁桃体の活動を活発にさせます。扁桃体は、外からの刺激に反応して自分にとって有益=快なのか、害悪=不快なのかを判断する役割があり、害悪になる場合は活性化し、副腎髄質からアドレナリンやノルアドレナリンなどのカテコールアミン、皮質からはストレスホルモンのコルチゾンを分泌させるのです。

 これらは心拍数を増加させたり、血流を増やして血管を収縮させるため血圧が上昇します。それだけ、心臓や血管の負担が増大することになります。さらに、ストレスによって炎症細胞が放出され、動脈硬化性のマクロファージが炎症反応を増強するため、プラークができたり、動脈瘤を形成したりすることなどもわかっています。騒音が不快な音の刺激として扁桃体を過剰に活動させることが、心血管疾患リスクをアップさせるのです。

 もちろん、騒音によって生じる睡眠不足や活動量の低下、難聴なども心臓に悪影響を与え、心臓疾患リスクを高めますから、騒音は考えている以上に心臓にとって大敵といえます。

 交通量の多い幹線道路沿いなど騒音がひどい場所で生活している場合、心臓を守るためには引っ越すことが最善といえますが、一般的にはそうした手段は簡単ではないでしょう。自宅では耳栓をしたり、防音工事を行うといった対策も限界があるといえます。

 ですから、まずは「騒音がひどい環境での生活は心臓疾患リスクが高い」ということを認識し、心臓疾患のリスク因子となる高血糖、高血圧、高コレステロールなどの生活習慣病があればしっかり治療して管理してください。そのうえで、心臓をはじめとした体調の変化を見逃さないように注意して、異変があれば早めに医療機関を受診しましょう。

 将来的には、インターネット上に構築された3次元の仮想空間で、自分の分身であるアバターを介して現実世界のような体験ができる「メタバース」の開発が進み、その空間では騒音などのリスク因子がない環境で時間を過ごせるようになるかもしれません。さらに、個々の生体情報を基にして、その人が該当する病気の発症リスクをアップさせないような環境を選択できるようなシステムが開発される可能性もあります。

 それくらい生活環境は健康に結びついていると認識し、できることから自分にとってよりよい環境を整えることが大切です。

◆本コラム書籍化第3弾「60代、70代なら知っておく 血管と心臓を守る日常」(講談社ビーシー)発売中

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