長寿研究のいまを知る(7)「老化細胞除去薬」開発のきっかけはがん研究だった
高齢者はなぜ、免疫により取り除かれるはずの老化細胞がいつまでも生き延びて蓄積していくのか--。
GLS1阻害薬によってマウスの老化細胞を減少させることに成功した東大の研究チームが目をつけたのが、がん細胞が免疫からの攻撃を免れるために細胞表面に出しているPD-L1と呼ばれるタンパク質だ。
がん細胞は、免疫のひとつであるT細胞の表面にあるPD-1に結合することで、T細胞からの攻撃を免れていた。2018年にノーベル生理学・医学賞を受賞した本庶佑京大教授の発見だ。これをもとに、抗PD-1抗体ががん治療薬「オプジーボ」として結実したのはご存じの通り。
東大の研究チームが老齢マウスを調べたところ、老化細胞の約10%にPD-1が出ていて、加齢とともにその数が増えていること、老齢マウスに抗PD-1抗体を注入すると肝臓や腎臓の老化細胞が減少して筋力が回復したことなどを発見。これらの研究結果を22年に世界的権威のある英科学誌に発表している。
「そもそも老化細胞除去薬(セノリティクス)開発のきっかけは、米国のがん研究にあります。米国メイヨークリニックの研究者ががん研究のための遺伝子改変マウスを作ったところ、早老マウスができたのです。同研究者のチームは『老化細胞を除去すれば老化を治せるのではないか』との仮説を立てて研究を続け、11年には老化細胞を除去することで老齢に伴う病態の多くが防げることを発表。この発見を契機に同様の知見が続々と発表され、15年には、11年の研究にも参加した同クリニックの別の研究者が世界初の老化細胞除去薬の開発に成功したのです」