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田中幾太郎ジャーナリスト

1958年、東京都生まれ。「週刊現代」記者を経てフリー。医療問題企業経営などにつ いて月刊誌や日刊ゲンダイに執筆。著書に「慶應幼稚舎の秘密」(ベスト新書)、 「慶應三田会の人脈と実力」(宝島新書)「三菱財閥 最強の秘密」(同)など。 日刊ゲンダイDIGITALで連載「名門校のトリビア」を書籍化した「名門校の真実」が好評発売中。

“格差社会の縮図”…医学部受験で都立日比谷高校が高い実績を出せる理由

公開日: 更新日:

「医学部受験は格差社会の縮図ともいえる」と話すのは長年、そうした光景を見続けてきた医学部予備校の経営者。富裕層以外の一般家庭では医師を目指すこと自体、いばらの道なのだ。

「とにかくやたらとカネがかかる世界。小学校受験、中学受験、学習塾、予備校、家庭教師……。そして医学部の学費。生活に追われる環境で育った受験生は不利な条件を一つ一つクリアしていかなければならない」

 私立大医学部31校の6年間の平均学費は3250万円。ポンと出せる家庭はそれほど多くない。一般家庭の受験生がまず目標とするのは国公立大だが、ここのところ偏差値は右肩上がり。「高校3年間だけでは合格はおぼつかない」(同)のが実情だ。医学部を目指すのなら中高一貫校が現実的な選択になってくるが、中学受験自体、かなりの出費を覚悟しておかなければならない。

「医学部受験で実績のある難関の中高一貫校に入ろうと思ったら、早くから準備が必要で塾の費用もかさんでいく。私立に入学する場合、その学費もばかにならない」(学習塾スタッフ)

 たとえば私立の中で比較的安いとされる麻布でも入学金、授業料、維持費、寄付など、中学・高校でかかる費用は計約550万円だ。

■中高一貫校に比べ圧倒的に不利な状況下で奮闘

 6年間の猶予期間がある中高一貫校に比べ圧倒的に不利な状況下で奮闘している公立高もある。都立日比谷高もそのひとつ。戦前は「旧制一中」として、そして戦後もずっと東大合格者数トップを守っていたエリート校だったが、60年代後半から失速。93年には東大合格者は1人まで減った。世紀が変わり改革が進むと、18年には48年ぶりにトップ10入り。完全復活を果たした。

「予備校講師並みに大学入試に直結した教え方ができる教員を数多く採用したんです。東大だけでなく、医学部受験も意識した陣容になった」(日比谷高関係者)

■麻布に迫る勢い

 成果は数字にも表れている。今年度の国公立大医学部合格者は26人。例年高い実績を残している麻布の30人に迫る勢いだが、「まだまだ背中は遠い」と関係者。その理由は現役合格の少なさだ。合格者のうち現役は13人で、その割合は5割。麻布は18人で6割が現役だ。女子中高一貫校トップの桜蔭は合格者52人中42人が現役で8割を超えている。

「2学期制や1日7時限授業を導入するなど、効率化を図っているものの3年という期間の劣勢をはね返すまでには至っていない。もっと工夫が必要かもしれない」(同)

 浪人する経済的マイナスは小さくない。医師になるのが遅れれば、その分の生涯賃金が減ってしまうのだ。厚生労働省の医療経済実態調査(21年実施)によると、一般病院の勤務医の平均年収は約1470万円。定年までの期間が1年短くなるだけで、この額を丸々ふいにすることになる。格差はどこまでいっても不公平をもたらす厳しい現実が垣間見える。



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