クマ出没でネット上は集団ヒステリー状態…ニホンオオカミを絶滅させた頃に似た嫌なムード
昨年ほどではないが、今年もクマの出没が相次いでいる。人への被害も確認されており、ネット上では「自衛隊を使ってクマを駆除しろ」といった過激な意見も目立っている。一方、北海道奈井江町ではハンターの報酬が低すぎるという問題も浮上した。
■クマハンターの日当は20万円が妥当?
4800人ほどが暮らす奈井江町でヒグマ駆除を巡り、地元猟友会に提示された日当は8500円(発砲を伴う場合は1万300円)。これに対し猟友会の会長は「高校生のコンビニのバイトみたいな金額。ハンターをバカにしている」と反発している。危険な作業に見合わない低報酬というわけだ。
確かに札幌市は、国の交付金8000円に上乗せする形で出動1回につき2万5300円、捕獲・運搬込みで3万6300円を支払っている。奈井江町のおよそ3倍の金額だ。
ネット上では「ハンターの報酬額を上げる気がないなら、奈井江町長が自分でやれ」「命に関わる危険な仕事。日当は20万円くらいが妥当」といった声が相次ぎ、さらに「自衛隊を派遣してヒグマを駆除しろ」「国や県が駆除の専門部署を設置しろ」といった提案まで出ている。日本からヒグマやツキノワグマを根絶やしにしそうな勢いだ。
野生動物への恐怖心という点は十分に理解できるが、なにやらニホンオオカミを絶滅させた明治初期の頃の雰囲気に似ているような気もする。例えば、明治10(1877)年、宮城県はニホンオオカミの駆除令を出し、メス1頭につき7円50銭、オス7円、子2円の手当金を支給。理髪料が10銭の時代で、今なら20万円ほどの支給額になる。この手当金の支給は全国各地で行われ、明治20年代にはニホンオオカミはほぼ絶滅。明治43(1910)年に福井県で捕獲されて以降、目撃例はなくなってしまった。絶滅は狂犬病のジステンパーウイルス症が主原因とされるが、西洋から流入してきた「狼=悪者」というイメージがニホンオオカミの駆除に拍車をかけたとも言われる。日本全体が集団ヒステリーのようになっていた時代だ。
「宮沢賢治に『狼森と笊森、盗森』という短編があります。小岩井農場の北にあった実在の森が舞台ですが、すでに宮沢が物語を書いた大正時代にニホンオオカミは伝説上の動物だったのです」(ジャーナリスト・中森勇人氏)
未開の森に人間たちが入植したところ、家の子どもたちが失踪したり、収穫物が消えるといったことが起きるストーリーだ。
オオカミのような天敵がいなくなったことでイノシシやシカが増える一因ともなっているが、農水省は「個体数の調整」という名目で、人間側から見た害獣の駆除を行っている。
その数、2022年はニホンジカが71万6800頭、イノシシ59万100頭、ツキノワグマ3090頭、ヒグマ796頭など。2021年時点のニホンジカの推定個体数は222万頭、イノシシが約72万頭だからかなりの割合になる。簡単に言うと、殺した数だ。
同様に2021年はニホンジカ72万5000頭、イノシシ52万8600頭、ツキノワグマ3675頭、ヒグマ819頭が駆除されている。
これら害獣の駆除には農水省から自治体へ交付金が支給されている。これがハンターへの報奨金の原資となるわけだ。